〜 赤ちゃんとあなた自身を守るために 〜
妊娠を考えている方、妊娠がわかった方、授乳中の方。「お薬を飲んでいて大丈夫かな」と不安を感じるのは、とても自然なことです。
大切なのは、自己判断でお薬をやめないこと。主治医と一緒に、あなたと赤ちゃんにとっていちばん良い方法を考えていきましょう。
「赤ちゃんのために薬をやめなきゃ」と思う気持ちはよくわかります。でも、自己判断で急にお薬をやめることは、お母さんにも赤ちゃんにも危険です。
精神科のお薬のなかには、妊娠中でも比較的安全に使えるお薬がたくさんあります。赤ちゃんへの影響が少ないお薬に切り替えたり、量を調整したりすることもできます。主治医と相談すれば、治療を続けながら妊娠・出産に臨むことは十分に可能です。
お薬を使うことのリスクばかりに目が行きがちですが、治療をしないことにもリスクがあります。精神科の治療は、あなたと赤ちゃんの両方を守るためのもの。どちらのリスクが大きいかを、主治医と一緒にバランスよく考えることが大切です。
妊娠を計画している段階で主治医に相談するのがいちばんスムーズです。前もって準備ができます。
「いつ頃妊娠を考えている」「妊活を始めたい」など、今の気持ちを率直にお話しください。早めに相談することで、余裕をもった計画が立てられます。
妊娠中でもより安全に使えるお薬への変更や、量の調整を相談します。切り替えには時間がかかることもあるので、できれば妊娠の数か月前から準備できるとベストです。
妊娠中は体調の変化が大きくなります。精神的に安定した状態で妊娠を迎えることが、お母さんにとっても赤ちゃんにとっても大切です。無理にすべてのお薬をやめる必要はありません。
可能であれば、パートナーの方と一緒に主治医の説明を聞くと、家族全体で理解を深められます。妊娠中・産後のサポート体制を考えるきっかけにもなります。
妊娠がわかったら、次の診察を待たずにできるだけ早く主治医にお伝えください。お薬の調整が必要かどうかを相談します。「お薬を飲んでしまったけど大丈夫?」という不安があっても、まず主治医に確認しましょう。
赤ちゃんの発育段階に合わせて、お薬の影響も変わってきます。
妊娠中は産科(産婦人科)と精神科の両方のかかりつけ医が連携して見守ります。精神科の主治医から産科医への情報提供書をお渡しすることもできますので、ご相談ください。
以下は一般的な目安です。個人の状態や妊娠の時期によって判断は変わりますので、必ず主治医にご確認ください。
| 分類 | 代表的な薬 | 妊娠中の安全性 |
|---|---|---|
| SSRI | セルトラリン(ジェイゾロフト) | 比較的安全 妊娠中の使用データが多く、第一選択になりやすい |
| SSRI | パロキセチン(パキシル) | 要注意 妊娠初期の心臓奇形リスクの報告あり。他のSSRIへの切替を検討 |
| SNRI | デュロキセチン(サインバルタ) | データ限定的 主治医と相談のうえ判断 |
| NaSSA | ミルタザピン(リフレックス) | データ限定的 使用例は増えているが、十分なデータは蓄積中 |
| 薬剤名 | 妊娠中の安全性 |
|---|---|
| リチウム(リーマス) | 要注意 心臓の奇形(エブスタイン奇形)のリスクがわずかに上昇。ただし双極性障害の再発防止とのバランスで使用を続ける場合も。胎児心エコーで経過観察 |
| バルプロ酸(デパケン) | 原則避ける 神経管閉鎖障害や発達への影響のリスクが高い。妊娠可能年齢の方には他の薬を優先 |
| カルバマゼピン(テグレトール) | 要注意 神経管閉鎖障害のリスクあり。葉酸の補充が推奨される |
| ラモトリギン(ラミクタール) | 比較的安全 気分安定薬のなかでは妊娠中の安全性データが比較的多い。妊娠中は血中濃度が変動するため量の調整が必要 |
| 分類 | 妊娠中の安全性 |
|---|---|
| ベンゾジアゼピン系 デパス、ソラナックス、レンドルミンなど |
要注意 長期・大量使用は新生児に離脱症状が出ることがある。必要最小限の使用にとどめ、出産前に減量を検討 |
| 非ベンゾジアゼピン系(Z薬) マイスリー、ルネスタなど |
データ限定的 ベンゾジアゼピンと同様の注意が必要 |
| 分類 | 代表的な薬 | 妊娠中の安全性 |
|---|---|---|
| 第2世代 | クエチアピン(セロクエル) | 比較的安全 妊娠中の使用データが比較的多い |
| 第2世代 | オランザピン(ジプレキサ) | データ限定的 体重増加・血糖への影響に注意。主治医と相談 |
| 第2世代 | アリピプラゾール(エビリファイ) | データ限定的 使用例は増えているが、まだデータは蓄積中 |
精神科のお薬の有無にかかわらず、妊娠を考えている方には葉酸(フォリックアシッド)の摂取が推奨されています。特に気分安定薬(バルプロ酸、カルバマゼピン)を服用中の方は、神経管閉鎖障害の予防のために葉酸の積極的な補充が大切です。主治医や産科医にご相談ください。
母乳を通じて赤ちゃんに移行するお薬の量は、ごくわずかであることが多いです。お薬の種類によっては、授乳を続けながら治療を続けることが可能です。
母乳育児には、赤ちゃんの免疫力向上やお母さんとのスキンシップなど、多くのメリットがあります。「お薬を飲んでいるから母乳はダメ」とは限りません。お薬の影響と授乳のメリットを、主治医と一緒に天びんにかけて決めましょう。
完全母乳にこだわる必要はありません。母乳とミルクを組み合わせる「混合栄養」も立派な選択肢です。お薬を飲むタイミングと授乳のタイミングをずらすなど、工夫することもできます。主治医とご相談ください。
出産後はホルモンバランスの急激な変化、睡眠不足、育児のストレスなどが重なり、精神的に不安定になりやすい時期です。もともと精神疾患のある方は、症状が再発・悪化するリスクが高くなります。
妊娠中にお薬を減らしていた場合、出産後すぐに元の量に戻すことが推奨される場合があります。産後の体調変化に備えて、あらかじめ主治医と「出産後の治療計画」を立てておくと安心です。
育児は想像以上に大変です。パートナーやご家族、行政の支援サービス(産後ケア事業、保健師の訪問など)を積極的に活用してください。助けを求めることは、弱さではなく、賢い選択です。
精神科のお薬を飲みながら妊娠・出産することに、ご本人は不安や罪悪感を抱えていることがあります。ご家族にお願いしたいのは、次の3つです。
多くの場合、心配しすぎる必要はありません。妊娠初期にお薬を飲んでいたからといって、必ずしも赤ちゃんに影響が出るわけではありません。まずは落ち着いて主治医にご相談ください。お薬の種類や量、飲んでいた時期を確認したうえで、今後の方針を一緒に考えます。
お薬を飲んでいない方でも、先天的な異常が起こる確率は約2〜3%あります。多くの精神科のお薬では、この確率が大きく上がるわけではありません。一部の薬(バルプロ酸など)にはリスクの高いものもありますが、比較的安全に使えるお薬も数多くあります。主治医が、あなたの状態に合わせて最も安全な選択肢を提案します。
いいえ、すべてやめる必要はありません。お薬を完全にやめることで症状が悪化し、お母さんの健康や妊娠の経過に悪影響が出ることもあります。お薬の「リスク」と「やめるリスク」を天びんにかけて、主治医と一緒に最善の判断をしましょう。
ほとんどの精神科のお薬は、男性が服用していても赤ちゃんへの影響はないか、極めて小さいと考えられています。ただし一部のお薬は精子の質に影響する可能性が報告されています。気になる方は主治医にご相談ください。
「天然だから安全」とは限りません。漢方薬のなかにも妊娠中に使用を避けるべきものがあります。サプリメント(特にセントジョーンズワートなど)も、お薬との飲み合わせに注意が必要です。自己判断で使わず、必ず主治医にご相談ください。
お薬の種類によっては、授乳しながら治療を再開・強化することができます。セルトラリンなど母乳への移行が少ないお薬は、授乳中も比較的安心して使えます。完全母乳にこだわらず、混合栄養にすることで柔軟に対応する方法もあります。主治医と産科医に相談してみてください。
⚕️ このページの内容は一般的な情報提供を目的としており、個別の診断・治療の代わりとなるものではありません。
お薬の変更・中止は必ず主治医の指示のもとで行ってください。
自己判断での服薬中断は、お母さんにも赤ちゃんにも危険です。