〜 「気のせい」ではありません。症状は本物です 〜
身体症状症は、痛みや倦怠感などの身体症状が続き、日常生活に大きな影響を与える状態です。検査で明確な原因が見つからないこともありますが、症状は「気のせい」ではなく、本物です。
DSM-5(最新の精神医学の診断基準)では、「検査で異常がないかどうか」ではなく、「症状によってどれだけ苦しんでいるか」を重視する新しい理解に変わりました。心と体を分けて考えないアプローチです。
一般人口の5〜7%、内科を受診する方の20%以上が身体症状症に該当するとされています。「自分だけ」ではありません。多くの方が同じ悩みを抱えています。
脳の感覚を処理する領域が過敏になっており、通常なら気にならない体の信号を「危険」として拾い上げてしまいます。体の中の「警報装置」の感度が上がっている状態です。
身体症状症の症状は非常にさまざまです。一つの症状だけのこともあれば、複数の症状が同時に現れることもあります。
何度も病院を回り、たくさんの検査を受けても「異常ありません」と言われる——そのつらさは計り知れません。「自分がおかしいのでは」「信じてもらえない」と感じることもあるでしょう。
しかし、「検査で異常がない」ことは、脳と体の連携の問題が原因である可能性を示しています。これは身体症状症という、しっかりとした治療法のある状態です。
身体症状症では、心と体の間に悪循環が生まれています。このサイクルを理解することが、回復への大切な一歩です。
仕事・人間関係・将来への心配など
交感神経が過剰に働き、体に影響
痛み、めまい、倦怠感、動悸など
「重い病気では?」と心配が強まる
不安がさらにストレスを生む
→ 症状が悪化 → さらに不安 → 悪循環
身体症状症では、症状を最悪の方向に解釈してしまう「破局的思考」が生じやすくなります。
「頭が痛い」 → 「脳腫瘍かもしれない」 → 「もう終わりだ」
「胸が苦しい」 → 「心臓病かもしれない」 → 「倒れたらどうしよう」
「しびれがある」 → 「神経の病気かも」 → 「体が動かなくなるかも」
このような考え方は自然な反応ですが、不安を強め、症状を悪化させてしまいます。考え方のパターンに気づくことが回復の糸口になります。
脳画像研究では、身体症状症の患者さんにおいて島皮質(体の感覚を処理する領域)の過活動が確認されています(Perez et al., 2015)。また、前頭前皮質と島皮質の接続パターンにも変化が見られ、体からの信号を「危険」として過剰に処理してしまう神経回路の特徴が明らかになっています。これは「気のせい」ではなく、脳レベルの変化です。
身体症状症には効果的な治療法があります。「症状をゼロにする」ことではなく、「症状があっても自分らしい生活を送れるようになる」ことを目標にします。
身体症状症に最も効果的とされる心理療法です。症状に対する考え方(「重い病気かも」)を見直し、回避行動(「痛いから動かない」)を減らしていきます。
→ 当院の「考え方のクセに気づくワーク」で練習できます
身体感覚を「判断せずに観察する」練習です。「この痛みは危険だ!」と反応するのではなく、「今、ここに痛みがある」とただ気づく。この姿勢が、症状への過剰な反応を和らげます。
→ 当院の「マインドフルネスアプリ」で実践できます
症状を「なくそう」とするのではなく、症状があっても大切な活動を続けることを目指します。「痛みがあっても散歩に行ける」「だるくても好きなことを少しだけやる」——価値に基づいた行動を増やしていきます。
症状のために活動が減っている場合、少しずつ活動を増やしていくことが回復に大切です。「痛みが完全に消えてから動こう」と待つのではなく、「今できる範囲で少しだけ」動くことから始めます。
身体症状症そのものに対する特効薬はありませんが、合併することが多いうつ症状や不安症状に対して抗うつ薬(SSRI/SNRI)を使用することがあります。また、一部の抗うつ薬には痛みを和らげる効果もあります。
Cochrane レビュー(van Dessel et al., 2014)では、CBTが身体症状症の症状の重症度を有意に改善することが示されています。特に、症状への破局的思考の減少と身体機能の改善が確認されており、効果は治療終了後も維持されました。マインドフルネスベースの介入も有望なエビデンスが蓄積されています。
体の感覚に意識を集中しすぎると、症状がより強く感じられます。ただし「症状を無視する」のではなく、「気づいた上で、他のことにも注意を向ける」バランスが大切です。何か別の活動に少し意識を向けてみましょう。
症状が気になるとインターネットで検索したくなりますが、医療情報のネット検索は不安をさらに強めることがほとんどです。「調べれば安心する」と思っていても、実際には調べるほど不安が増すパターンに気づいてみてください。
「完全に良くなってから」と待っていると、活動が減り、体力も落ち、さらに症状が続く悪循環に入ります。痛みやだるさがあっても、少しだけ歩く、少しだけ家事をする——小さな一歩が大きな変化につながります。
呼吸法やマインドフルネスは、自律神経のバランスを整え、症状を和らげる効果があります。毎日数分でも続けることが大切です。
決まった時間に起きて、食事をとり、適度に体を動かし、十分な睡眠をとる。基本的な生活リズムを整えることは、自律神経の安定と症状の軽減に直結します。
検査で異常がなくても、ご本人が感じている症状は本物です。「気のせい」「考えすぎ」という言葉は、本人を傷つけ、信頼関係を損ないます。「つらいんだね」と、まず症状を認めてあげてください。
「大丈夫?」「病院に行った方がいいんじゃない?」と何度も聞くことは、一見優しさに見えますが、実は「やっぱり心配な状態なんだ」というメッセージを強化してしまいます。
症状にばかり目が向くと、ご本人もご家族も疲弊します。「今日は○○ができた」「先週より少し長く歩けた」など、小さな進歩に目を向け、一緒に喜ぶことが回復の後押しになります。
「無理しなくていいよ」と言いすぎると、活動がどんどん減ってしまうことがあります。本人が「やってみよう」と思ったときに、背中をそっと押してあげるくらいの距離感がちょうどいいかもしれません。
以下に当てはまる場合は、早めの受診をおすすめします:
身体症状症は適切な治療で改善が見込めます。心療内科や精神科への受診が回復への第一歩です。