〜 小さな行動から、気分を持ち上げる 〜
「やる気が出たら動こう」ではなく、「動いてみるから、やる気があとからついてくる」。この順番の入れ替えが、行動活性化の中心にあります。
うつのときに小さくなってしまった生活の輪を、考え方ではなく、行動のほうからひろげ直していく治療法です。認知行動療法(CBT)の一部でもあり、それ単独でも使われます。
行動活性化は「気合を入れて動け」という話ではありません。むしろ逆で、気合がなくても動けるところまで、行動のハードルを下げるのが仕事です。
「散歩する」が無理なら「玄関まで行く」。それも無理なら「靴下をはく」。ばかばかしいくらい小さくしていい——これが原則です。
行動活性化は、「考えるのもしんどい」ときにこそ使いやすいのが特徴です。頭を使う作業が少なく、やることがはっきりしているからです。
落ち込みが強く、頭が回らない時期でも取り組めます。
考え方を扱うより、行動を扱うほうが合う方に。
行動活性化では、減った行動だけでなく増えた行動にも注目します。
たとえば、ずっと横になる。スマホを何時間も見る。人からの連絡を返さない。お酒の量が増える。——これらは「怠け」ではなく、つらさから一時的に離れるための行動(回避)です。その場はしのげますが、あとで事態が悪くなるという共通点があります。
責めるためではなく、「何を避けているのか」がわかると手の打ちようが出てくるので、一緒に眺めていきます。
決まった順番があります。多くの場合、数週間から3か月ほどで形になります。
1週間ほど、何時に何をしたかと、そのときの気分(0〜10点くらい)を書きとめます。良くしようとせず、ありのままを記録します。
これだけで多くの方が気づきます。「思っていたより動いていた」「気分が上がった時間が確かにあった」——記録は、頭の中の印象を、事実で上書きするための道具です。
記録を見ながら、気分が少しでも上向いた行動を探します。手がかりは2種類です。
「できた感じ(達成)」——洗濯をたたんだ、メールを1通返した。
「気持ちいい感じ(楽しさ)」——お茶を飲んだ、日に当たった、音楽を聴いた。
どちらか一方に偏っていることがよくあります。両方あるほうが、気分は安定します。
選んだ行動を、「いまの自分が確実にできる大きさ」まで削ります。5分でいい、1回でいい、途中でやめていい。
ここで大きくしすぎると「やっぱりできなかった」が積み重なり、逆効果になります。成功を積むことが目的なので、簡単すぎるくらいでちょうどいいのです。
「その気になったらやる」ではなく、あらかじめ日時を決めて、時間が来たらやる。気分が乗らなくても、とりあえず始めてみます。
これがこの治療のいちばんのポイントです。うつのときは「やる気」は行動の前ではなく、あとから出てくる——それを実際に確かめていきます。
やる前とやったあとの気分を、簡単に書き残します。「思ったほど悪くなかった」「少しマシになった」——この小さな差の積み重ねが、次の一歩の燃料になります。
うまくいかなかった回も、そのまま記録します。どんな条件だと動けて、どんな条件だと動けないかがわかるからです。
できることが増えてきたら、範囲を広げます。家の中 → 外 → 人と会う → 仕事や役割。自分にとって大事なこと(価値)に近い行動へ、少しずつ寄せていきます。
ここまで来ると、生活のほうが気分を支えてくれるようになります。
行動活性化は、うつ病に対して認知行動療法(CBT)と同じくらいの効果があることが、大規模な研究で示されています。
イギリスで行われた COBRA 試験(2016年)では、うつ病の方を行動活性化とCBTに分けて比べたところ、1年後の症状の改善に差がありませんでした。行動活性化のほうが、より短い訓練を受けたスタッフでも提供できるため、費用も抑えられたと報告されています。
また、重いうつに対しても効果が確かめられており(2006年の研究)、「軽いうつ向けの簡易版」ではないことがわかっています。
うつのときは、行動と「報われる感じ」のつながりが切れてしまっています。やっても何も感じない、だからやらない、だからますます何も起きない。
行動活性化は、その回路を外側から少しずつつなぎ直す作業だと考えられています。気分が戻るのを待つのではなく、気分が戻る材料を先に用意するのです。
行動活性化を実際にやってみるためのワークが、このアプリにあります。