〜 心を守るために起きていること 〜
解離性障害は、心が自分自身や周囲の現実から切り離される状態です。つらい体験から心を守るために、脳が自動的に行う防衛反応として起こります。
「おかしくなった」のではありません。心の自然な保護メカニズムが過剰に働いている状態です。一般人口の約2〜3%に見られ、思った以上に多くの方が経験しています。
解離は、脳が「これ以上のストレスには耐えられない」と判断したときに発動する保護システムです。痛みや恐怖を感じなくすることで、心が壊れるのを防いでいます。
解離性障害は適切な治療により改善が見込めます。段階的な治療を通じて、安全にトラウマを処理し、心のつながりを取り戻していくことができます。
解離にはさまざまなタイプがあります。症状の現れ方は人それぞれで、複数のタイプが重なることもあります。
かつて「多重人格障害」と呼ばれていたもので、複数の人格状態(パート)が存在します。それぞれのパートが異なる名前、年齢、性別、行動パターンを持つことがあります。パート間の記憶の断裂(覚えていない時間がある)が特徴です。
自分自身や周囲の世界が「現実ではない」「夢の中にいるよう」と感じる状態です。自分の体を外から見ているような感覚(離人感)や、周囲がガラス越しに見えるような感覚(現実感消失)があります。
通常の物忘れとは異なり、自分にとって重要な出来事や個人情報を思い出せなくなります。特にトラウマに関連した記憶が失われることが多く、「記憶に穴が開いている」と表現されます。
ぼーっとして時間が経っている、気がつくと知らない場所にいる、体の感覚がない(痛みを感じない)、声が聞こえるなど、さまざまな形で現れます。
解離の多くは、トラウマ(虐待、事故、災害など)への防衛反応として始まります。つらい体験のさなかに、心が自動的に「感じないモード」に切り替わることで、その瞬間を生き延びるのです。
子どもの頃のトラウマは特に解離と関連が深いとされています。まだ心の対処能力が十分でない時期に受けたストレスは、解離というかたちで処理されやすいのです。
解離性障害は、もともとの脆弱性(遺伝的要因、神経系の感受性など)と環境からのストレスが組み合わさって発症します。同じ体験をしても解離が起きる人と起きない人がいるのは、この組み合わせの違いによるものです。
解離はトラウマ記憶の処理が不完全なために起きると考えられています。fMRI研究では、解離性障害の患者さんにおいて前頭前皮質と辺縁系(扁桃体・海馬)の接続異常が確認されています(Lanius et al., 2010)。前頭前皮質が辺縁系を過剰に抑制することで、感情や感覚が「切り離される」状態が生じています。
また、解離が起きているときは副交感神経の「背側迷走神経」が優位になり、「凍りつき反応(freeze response)」が起きていることが示唆されています(ポリヴェーガル理論)。
解離性障害の治療は、段階的治療モデル(3フェーズ)に沿って進めます。焦らず、安全を最優先にして一歩ずつ進んでいきます。
最も重要な段階です。まず安全を確保し、心を安定させることから始めます。グラウンディング技法、呼吸法、リラクゼーションなどの対処スキルを学び、日常生活で解離が起きたときに「今ここに戻ってくる」力をつけます。
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Phase 1で十分な安定が得られたら、セラピストと一緒に慎重にトラウマ記憶に向き合います。安全な環境で、少しずつ過去の体験を処理していきます。このフェーズは急がず、ご本人のペースを大切にします。
バラバラになっていた心の部分を統合し、より安定した自己感覚を育てます。新しいアイデンティティの確立、人間関係の再構築、将来の目標設定など、「これからの人生」に焦点を当てます。
解離そのものに直接効く薬はありませんが、合併することが多いうつ症状や不安症状に対して抗うつ薬(SSRI)や抗不安薬を使用することがあります。あくまで心理療法を補助するものとして位置づけられます。
解離性障害の治療には2〜5年かかることが一般的です。これは長く感じるかもしれませんが、焦る必要はありません。段階を踏んで安全に進むことが、確実な回復につながります。Phase 1だけでも生活の質は大きく改善します。
解離が起きそうなとき、または起きているときに「今ここ」に戻るための技法です。五感を使って現在に意識を向けます。
目で見えるものを5つ挙げる(壁の色、時計、窓の外の木...)
触れて感じるものを4つ挙げる(椅子の感触、足の裏の床...)
聞こえる音を3つ挙げる(エアコンの音、鳥の声...)
嗅げるにおいを2つ挙げる(コーヒーの香り、石鹸の匂い...)
味わえるものを1つ挙げる(ミントのガム、お茶の味...)
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目を閉じて、自分が安心できる場所をイメージしてみましょう。海辺、森、暖かい部屋——どんな場所でもかまいません。五感を使って細部まで想像し、つらくなったときにその場所に「行ける」ようにしておきます。
毎日の出来事や感情を書き留めることで、記憶のつながりを保ちやすくなります。日付、場所、その日にしたことを簡単に記録するだけでも効果があります。「今日は何をした」がわかることが安心につながります。
決まった時間に起き、食事をとり、眠ることは、心の安定に大きく貢献します。生活リズムの乱れは解離を起きやすくすることがわかっています。「同じ時間に同じことをする」安心感を大切にしてください。
一人で抱え込まないでください。信頼できる家族、友人、セラピストに「こういうことが起きている」と伝えることで、孤立感が和らぎます。理解してくれる人が一人いるだけで、大きな支えになります。
解離は本人が意識的にコントロールしているものではありません。「演技だ」「注目を集めたいだけだ」と思わないでください。脳が自動的に発動する防衛反応であり、本人も困惑し、怖がっていることが多いのです。
ご本人が解離状態にあるとき(ぼんやりしている、反応がない、別人のように振る舞うなど)は、以下の対応を心がけてください。
「何があったの?」「思い出してごらん」と聞きたくなる気持ちはわかります。しかし、無理に記憶を掘り起こそうとすることは、再トラウマ化のリスクがあり、逆効果です。ご本人が話したいときに、安全に話せる環境を用意することが大切です。
以下に当てはまる場合は、早めの受診をおすすめします:
解離性障害は専門的な治療で改善が期待できます。一人で悩まないでください。