〜 子どもではなく、関わり方のほうを変える 〜
ペアレントトレーニング(略してペアトレ)は、子どもの行動が変わりやすくなるように、大人の側の関わり方を練習するプログラムです。行動科学の考え方をもとに組み立てられていて、決まった回数・決まった順番で進みます。
大事なところなので先に書きます。これは「親の育て方が悪かった」という前提のものではありません。実際、ペアトレを受けにいらっしゃるご家庭は、たいていすでに人一倍の工夫をされています。うまくいかないのは努力の量ではなく、方法がその子の脳の仕組みに合っていないだけであることがほとんどです。
子どもに「集中しなさい」と言っても、注意の仕組みは変わりません。けれども、指示の出し方、注目の向け方、部屋の作り、予告のしかた——これらは今日から変えられます。そして、そこが変わると子どもの行動が変わる。ペアトレが扱っているのは、この順番です。
ADHDのあるお子さん、かんしゃく・反抗が強いお子さん、発達特性のあるお子さんの子育てが中心です。診断がなくても受けられる形(自治体の子育て支援など)もあります。年齢は2〜3歳から小学生までが主な対象で、低年齢ほど効果が出やすいことがわかっています。
ペアトレは、子どもの心理社会的な支援のなかでも研究の蓄積が多いもののひとつです。ただし「何にでも効く」わけではないので、効くところと効きにくいところを分けて書きます。
確立英国のNICEガイドラインでは、就学前のお子さんのADHDに対して、まず薬ではなく親への支援プログラムを行うことが第一選択として推奨されています。学齢期でも、親への支援は標準的な支援の一部として位置づけられています。
日本のADHD診療のガイドラインでも、環境調整と心理社会的な支援を先に、あるいはお薬と並行して行うという考え方が共通しています。ペアトレは、その中心的な方法として挙げられています。
日本では、厚生労働省の事業として実践のためのガイドブックが作られ、プログラムに共通して含めるべき要素が整理されています。自治体や発達支援センターで行われているものは、おおむねこの枠組みに沿っています。
強めかんしゃく・反抗・指示に従わないといった行動が減ることは、複数の研究のまとめで一貫して示されています。効果の大きさは中程度です。
強め親の側の変化——叱る回数が減る、ほめ方が具体的になる、子育てへの自信が上がる——も、はっきりと示されています。
中程度親のストレスや抑うつの軽減。これは見落とされがちですが、実際にはとても大きな意味があります。親が消耗している家庭では、どんな方法も続かないからです。
中程度親子関係そのものの改善。「一緒にいて楽しい時間が戻った」という変化が報告されます。
限定的ADHDの中核症状、とくに不注意そのもの。ここは正直にお伝えします。第三者が評価する研究デザインにすると、不注意や多動そのものへの効果は小さくなります。不注意に直接効くのは、いまのところお薬のほうです。
限定的学校での行動への波及。家庭で身についた関わり方は、自動的には学校に広がりません。学校側にも別に働きかけが必要です。
限定的学業成績への直接の効果。宿題に取りかかりやすくなるといった変化はありますが、成績そのものが上がるかどうかは、はっきりしていません。
要注意思春期以降。年齢が上がるほど効果は小さくなります。中学生以降では、ペアトレそのものより交渉や一緒に問題を解く形のアプローチに切り替えるのが一般的です。
研究を読むときに知っておくと役立つ点です。ペアトレの効果は、親が評価すると大きく、第三者が評価すると小さくなる傾向があります。
これは効果が嘘だという意味ではありません。親の見方が変わること自体が、家庭の空気を変えるからです。同じ行動でも「またやった」と見るか「今日は3回で済んだ」と見るかで、返ってくる対応が変わります。ただ、不注意そのものが減ったわけではないという点は、正確に持っておいてください。
※ 一般の方向けに要約しています。プログラムの種類や対象年齢によって結果に幅があります。くわしくお知りになりたい場合は診察でお尋ねください。
プログラムによって順番は違いますが、柱になる要素はおおむね共通しています。ここでは代表的なものを、行われる順に並べます。
「何回言ったらわかるの! 早く片づけなさい!」
(離れた場所から、大きな声で、複数の指示)
「あと5分で、ごはんにするね」(予告)
そばに行って、目を見て「ブロックを箱に入れて」(ひとつだけ)
やり始めたら「お、始めたね」(その瞬間に)
いちばん多いご質問です。ここでのほめるは、ごほうびを与えることではなく注目をどこに配るかという話です。
叱られるときだけ親がこちらを向く——という状況が続くと、子どもにとっては困った行動が「注目を得る確実な方法」になります。注目の配り先を変えるのは、甘やかしではなく、向きを直す作業です。
これは実際によく起きることで、やり方が間違っているとは限りません。これまで反応が返ってきた行動に反応しなくなると、子どもは一時的にもっと激しくやってみることがあります。
多くは数日から2週間ほどで落ち着きます。この山を知らないまま始めると、いちばん効き始める直前にやめてしまう——これが脱落のいちばん多い理由です。
ペアトレは、原因を探すためのものではありません。「誰のせいか」ではなく「これからどうするか」だけを扱います。
実際、グループに参加された方が口をそろえておっしゃるのは、「同じ話をしている人がいて安心した」ということです。技術を学ぶ以上に、そこが効いている面もあります。
変化を感じ始めるのはおおむね4〜8週です。1〜2回で結果が出るものではありません。
先に変わるのは、たいてい親の側の疲れ方です。「同じ場面でも、前ほど消耗しなくなった」。そこから子どもの行動が動いてくる、という順序をたどることが多いです。
ペアトレが続かない・効かないときには、たいてい理由があります。やる気や愛情の問題であることは、まずありません。
診察でよくお伝えするのは、この順番です。①親御さんの体調と睡眠 → ②安全にかかわることの線引き → ③ペアトレの技法 → ④学校との連携。
③から始めたくなるのですが、①が崩れているとほぼ続きません。まず親御さんが眠れているかどうか——ここは遠慮なくご相談ください。
ADHDのお子さんの場合、ペアトレとお薬は、担当している場所が違います。お薬は不注意や衝動性そのものに働き、ペアトレは関わり方と家庭の回り方に働きます。
研究のうえでも、両方を組み合わせると、それぞれ単独より広い範囲に効果が及ぶことが示されています。就学前のお子さんでは、まずペアトレから始めるのが標準です。お薬を使う場合の進め方はコンサータを始めるお子さんと保護者の方へにまとめています。
日本では実施しているところが限られ、待機が出ることもあります。地域で受けられる場所については、診察でご一緒に探せます。
順番待ちのあいだ、「1日10分のスペシャルタイム」と「できている瞬間に声をかける」の2つだけ先に始めてみてください。この2つは、独立して効果が確かめられている要素です。
全部そろわないと始められない、ということはありません。