社交不安症(社交不安障害)のはなし
人前で話す、電話に出る、人と食事をする。
そのたびに体がこわばって、声が震えたり、顔が熱くなったりする。前の晩から憂うつで、終わったあとも「変に思われたかも」と何度も思い返してしまう。
そんなつらさが続いているなら、それは「気が小さいから」でも「性格だから」でもないかもしれません。ここでは、人の目がこわくなるしくみと、少しずつ楽になっていく方法をお伝えします。
※ これは診断のためのチェックではありません。いくつ当てはまるかより、「自分のことかも」と感じたかどうかを大事にしてください。
人前で緊張するのは、だれにでもある自然なことです。恥ずかしがりな面は、その人らしさの一部でもあります。ちがいは、不安の強さと、それによって生活がどれだけ狭まっているかにあります。
| よくある緊張 | 社交不安症 | |
|---|---|---|
| 強さ | ドキドキするが、なんとかこなせる | とても強い恐怖や苦痛があり、体の症状も出る |
| 期間 | 場面が終われば落ち着く | 同じような場面のたびに、半年近く続いている |
| 避け方 | 苦手でも、必要なら参加する | できるだけ避ける、または強いつらさに耐えて参加する |
| 生活 | ふだんどおり過ごせる | 学校・仕事・人づきあいの選択肢が狭まっている |
社交不安症(社交不安障害)は、日本の調査ではおよそ100人に1〜2人が一生のうちに経験するとされています。10代で始まることが多いのが特徴で、長く続くほど「もともとの性格」と思い込みやすくなります。そのため、何年も相談せずに過ごしている方が少なくありません。
お薬の説明書などでは「社会不安障害」と書かれていることもあります。同じものを指しています。
社交不安というと「恥をかきたくない」というイメージがありますが、日本では「自分のせいで、相手に不快な思いをさせてしまうのでは」という形の不安もよく見られます。
「自分の視線が相手を困らせている気がする」「顔が赤くなって相手に気をつかわせてしまう」「自分のにおいで周りが嫌な思いをしているのでは」——昔から日本では「対人恐怖」と呼ばれてきたものです。いまの診断の基準でも、「他人に不快感を与えることへの恐れ」は社交不安症の一部として扱われています。
この不安の燃料になっているのは、多くの場合相手を大事に思う気持ちです。やさしさが強い人ほど、起こりやすい不安なのです。
「まちがいなく自分のにおいで周りが顔をしかめている」など、周りがどう言っても確信がゆらがないときは、ほかの病気の可能性も含めて考える必要があります。ひとりで抱えずに、診察でそのままお話しください。
社交不安が長引くときは、たいてい次のようなループができています。どれも、なんとかその場を乗り切ろうとする自然なはたらきです。
苦手な場面を乗り切るために、多くの方が次のような工夫をしています。
これらは、あなたがこれまでがんばって場面を乗り切ってきた証です。ただ、続けているうちに、2つのことが起こりやすくなります。
ひとつは、「なんとかなったのは、この工夫のおかげ」という学習が残ること。工夫なしでも大丈夫だったかもしれない、と確かめる機会がなくなってしまいます。
もうひとつは、工夫そのものが、かえって緊張して見えたり、そっけなく見えたりすること。研究でも、安全行動をやめたほうが不安が下がり、相手からの印象もよくなることがわかっています。
おすすめは、1つだけ外して、何が起きるかを確かめてみることです。ワークでは、自分の工夫をリストにして、どれから試すかを選べるようにしています。
ある実験で、目立つTシャツを着て部屋に入った学生に「何人が気づいたと思うか」を聞くと、実際に気づいた人数のおよそ2倍に見積もっていました。人はだれでも、自分にスポットライトが当たっていると感じやすいのです。
緊張や動揺などの気持ちは、自分で感じているほど外からは見えていません。「声の震えに絶対気づかれた」と思っても、相手はほとんど気づいていないことがよくあります。
社交不安症は、治療で良くなることが十分に期待できる状態です。ひとりひとりの希望や生活に合わせて、次のような方法を組み合わせていきます。
社交不安症にあわせた個人の認知行動療法が、もっとも効果の裏づけが多い治療です。治療を終えた人の8割以上が診断の基準を満たさなくなり、その効果が1年後も続いていた研究もあります。主に次のようなことに取り組みます。
認知行動療法は、条件を満たせば保険で受けられることもあります(医師が行う場合)。くわしくは主治医にご相談ください。このアプリのワークも、これらの考え方をもとにしています。
抗うつ薬のうちSSRIと呼ばれるお薬が、社交場面の不安をやわらげるのに効果があります。日本では3種類のSSRIが、社交不安症に正式に使えるお薬として認められています。
くわしくは お薬の情報 をご覧ください。
苦手な場面の前に飲む頓服(抗不安薬など)やお酒は、その場をしのぐ助けになることがあります。一方で、続けていると「それがないと無理」という学習が残りやすく、工夫なしでも大丈夫だったと確かめる機会が減ってしまいます。
人前で話す・演奏するなど特定の場面だけがこわい方には、場面の前に飲むお薬を相談できることもあります。いま頓服を使っている方は、自己判断で急にやめず、使い方を主治医といっしょに考えていきましょう。→ 安定剤の減らし方
目標は「まったく緊張しなくなること」ではありません。緊張していても、やりたいことができる場面を少しずつ増やしていくことです。そのための3つの練習を、ワークで用意しています。
自分がしている工夫をリストにして、いちばん外しやすいものを1つ選び、何が起きるかを確かめます。
会話のなかで、自分のドキドキではなく、相手の話や表情、部屋の様子に注意を向ける練習を毎日少しずつします。
「こうなるに違いない」という予想と、実際に起きたことを書きくらべます。予想はたいてい、実際より悪く見積もられています。
恥ずかしがりな面は、その人らしさの一部です。なくす必要はありません。ただ、生活が狭まるほどの強い不安は、「前のぐるぐる → 安全行動 → 反省会」のくり返しで強まっている状態で、このくり返しは練習や治療で変えていくことができます。10代から続いていると性格のように感じられますが、治療で楽になる方はたくさんいます。
だめ、ということはありません。ただ、お酒は「飲んだからなんとかなった」という学習を残しやすく、飲む量が少しずつ増えていくこともあります。酔いがさめるころに不安がかえって強まることもあります。まずは「1杯目を少し遅らせる」くらいから、飲まなくても大丈夫だった経験を少しずつ増やしてみましょう。
一生ということはありません。よくなってから一定の期間続け、そのあと主治医と相談しながら少しずつ減らしていきます。認知行動療法で身につけたことは、治療が終わったあとも効果が続きやすいことがわかっています。お薬と心理療法を組み合わせて考えていくこともできます。お薬は、いつまで飲むの? もご覧ください。
発表や演奏など、特定の場面だけに強い不安が出る方もいます。その場合も、同じしくみで不安が続いていることが多く、ワークの練習が役に立ちます。発表の前だけ使うお薬を相談できることもあるので、診察でお話しください。
人づきあいが苦手、という点では似ていますが、社交不安症では「どう見られるか・評価されるか」への恐れが中心です。ASDでは、相手の気持ちの読み取り方や会話のやりとりの特性が中心になります。両方が重なっていることもめずらしくありません。周りに合わせるためにがんばりすぎて疲れてしまうときは、マスキングについて も参考になります。
反省会は、「次は失敗しないように」というまじめさから始まります。ただ、うまくいかなかった部分ばかりを何度も再生すると、記憶が実際より悪いものになってしまいます。ワークでは「よかったこと1行・次に試すこと1行」だけ書いて終える練習を用意しています。ぐるぐるが止まらないときは ぐるぐるを止めるワーク もどうぞ。
診察で話すこと自体が緊張する、という方も多いです。うまく話せなくても大丈夫です。このページを開いて見せていただくだけでも、ワークの記録を見せていただくだけでも、話は十分に進みます。