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アサーション — 自分も相手もラクになる伝え方

〜 我慢しすぎず、言いすぎず、ちょうどいい伝え方 〜

「空気を読む」「察する」ことが得意な方は多いです。それは素晴らしい長所です。でも、いつも相手の気持ちばかり考えて自分を押し殺していると、心が疲れてしまいます。

かといって、「自分の意見をはっきり言いましょう」と言われても、なかなか難しいですよね。

このページでは、アサーション・トレーニングの考え方をもとに、「ちょうどいい伝え方」を一緒に考えます。

3つの伝え方パターン

自分がどのパターンに陥りやすいか、まず気づくことが第一歩です。

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我慢タイプ(言えない人)

相手を優先して自分を後回しにするパターンです。

  • 「いいよ、大丈夫」が口癖
  • 相手に嫌われるのが怖くて、本音を言えない
  • 内心では不満がどんどん溜まっていく
  • ある日突然キレてしまう or 体調に出る(頭痛、胃痛、不眠など)
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ぶつけタイプ(言いすぎる人)

ストレートに言うけれど、相手の事情を考えないパターンです。

  • 「なんでそうなるの?」「ちゃんとやってよ」が口癖
  • 自分の正しさを証明しようとする
  • 言った後スッキリするが、相手は傷つき、関係が悪化する
  • 「自己主張」を学んだ結果、配慮のない一方的な主張になることも
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裏タイプ(遠回しに当てつける人)

表面は従うけれど、態度で不満を示すパターンです。

  • 「わかりました」と言いつつ、わざと遅く対応する
  • 無視する、ため息をつく、嫌味を言う
  • SNSでそれとなく匂わせる
  • 本人も無自覚なことが多く、関係がじわじわ悪化する
✅ ちょうどいい伝え方

自分の気持ちに正直でありつつ、相手の立場も本気で想像する。「私の意見」を押し付けるのではなく、「一緒に考えたい」という姿勢。

これは性格ではなくスキルです。練習すれば誰でも上達できます。

「私はこう思います」の罠

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Iメッセージを使えば万能?

「あなたが悪い」ではなく「私はこう感じる」と伝えましょう ーー よく聞くアドバイスですが、そのまま使うと逆効果になることがあります

  • 「私はこう思います」を連発すると、「決めつけが強い人」に見えることがある
  • 「私は迷惑だと感じます」は、形は丁寧でも中身は非難
  • 形式的に「私は~」と言っても、本当の意味で相手を思いやれていなければ伝わらない
💡 本当に大切なこと

「私はこう思う」を伝える前に、まず「相手はどう思っているんだろう?」と一拍置くこと。

自分の気持ちを伝えるのは大事。でも、それは相手の事情を想像した「あと」にするだけで、伝わり方がまるで変わります。

🔄 一方通行から対話へ

NG:「私はこう思います」(一方的に宣言)

OK:「私はこう思うんだけど、あなたはどう思ってる?」(対話の姿勢)

たった一言添えるだけで、主張から対話に変わります

「わかってくれない」と怒る前に

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伝えていないのに「わかってくれない」と怒っていませんか?

「言わなくてもわかるでしょ」「察してよ」——こう感じたことはありませんか? 実はこれが、人間関係をこじらせる大きな原因になっていることがあります。

  • 自分では「明らかなこと」でも、相手にとっては「知らないこと」かもしれない
  • 不満を態度や空気で伝えようとすると、相手は「なぜ怒っているのかわからない」
  • 「これだけヒントを出しているのに気づかない」→ 余計にイライラする悪循環
  • 最終的に爆発して「もういい!」→ 相手は「突然キレた」と感じる
💡 「察して」は相手への過大な期待

あなたの頭の中は、あなたにしか見えません。どんなに親しい相手でも、「言わなくても伝わる」ことはほとんどないのです。

「わかってくれない」と感じたとき、まず自分に聞いてみてください:

  • そもそも、言葉にして伝えた?
  • 態度やため息で「察してオーラ」を出していなかった?
  • 相手が鈍いのではなく、自分が伝えていなかっただけかもしれない
🔁 よくあるすれ違いのパターン

Aさん(心の中):「こんなに忙しそうにしてるんだから、手伝ってくれてもいいのに…」

Bさん(心の中):「Aさん、集中してるみたいだから声かけない方がいいかな」

→ Aさんは「冷たい」と怒り、Bさんは「気を遣ったのに」と困惑。
一言「ちょっと手伝ってくれると助かるんだけど」と言えば、すぐ解決した場面です。

🌱 「察してほしい」を手放すと、ラクになる

「言わなくてもわかってほしい」は、裏を返すと「言葉にするのが怖い」ということかもしれません。

  • 断られるのが怖い
  • 自分の要望を言うのがワガママに感じる
  • 「お願い」すること自体に抵抗がある

でも、伝えることはワガママではありません。「手伝ってほしい」「こうしてくれると嬉しい」と言えることは、相手を信頼している証拠です。

逆に、察してもらうことに頼り続けると、相手を「察しの悪い人」としてジャッジし続けることになります。それは本当の意味で相手を大切にしていることでしょうか?

DESC法 — 伝え方の4ステップ

📋 DESC法とは

アサーション・トレーニングの代表的な技法で、4つのステップで自分の気持ちを整理して伝えるフレームワークです。

ここでは、原型のDESC法に「まず相手の事情を想像する」ステップを加えてアレンジしています。伝える前に一拍置くだけで、伝わり方が大きく変わります。

⏸️ まず、6秒待つ

DESC法に入る前に、感情的なまま話さないこと。まず6秒待つ。深呼吸でもいいし、水を一口飲むのでもいい。怒りのピークは6秒で過ぎると言われています。この6秒が、後悔する言葉を防いでくれます。

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まず相手の事情を想像する

DESC法に入る前に、相手がなぜそうしたのかを聞く・想像する。「何かあったの?」「忙しかった?」

例:パートナーが家事をしなかったとき → 「今日、仕事大変だった?」と聞いてみる

このステップがあるだけで、「一方的な主張」が「対話」に変わります

D

Describe(描写する)— 事実を客観的に伝える

感情や評価を入れず、起きたことだけを短く伝える。

例:「最近、家事はほとんど私がやっている状況で…」(×「あなたは何もしない」)

E

Express(表現する)— 自分の気持ちを短く伝える

相手の事情を聞いたあとで、ここで初めて自分の番。気持ちを短く、正直に。「〜だと助かる」「〜だとちょっとしんどい」の形が自然です。

例:「実は私もちょっと疲れが溜まってきてて」(×「私は怒っています」を連発しない)

S

Specify(提案する)— 具体的にどうしてほしいか

命令ではなく提案。「こうしてほしい」ではなく「〜してもらえると嬉しい」「〜はどうかな?」の形で。

例:「週末だけでもゴミ出しをお願いできたら助かるんだけど」

C

Consequence(結果)— そうなるとどうなるか

押し付けではなく、お互いにとって良い未来を見せる。脅しにならないように注意。

例:「そうしてもらえると、私も余裕ができて、週末もっとゆっくり一緒に過ごせると思う」

✅ DESC法まとめ例

パートナーに家事の偏りを伝える場面で使うと:

⏸️(カッとなりかけたけど、深呼吸して6秒待つ)
🤔「今日、仕事大変だった? 疲れてたのかな」
D:「最近、家事がちょっと私に偏っていて」
E:「正直、ちょっとしんどくなってきてて」
S:「週末のゴミ出しだけでもお願いできたら助かるんだけど」
C:「そうしたら、私もゆっくり休めて、一緒に楽しく過ごせると思う」

場面別の会話例

日常でよくある場面を取り上げました。我慢タイプ・ぶつけタイプの例と、ちょうどいい伝え方を比較してみてください。

🏢 職場:残業を断る

❌ 我慢タイプ
自分: 「…はい、わかりました」(今日も帰れない。もう限界なのに…)
❌ ぶつけタイプ
自分: 「無理です。なんでいつも私なんですか?」
✔️ ちょうどいい伝え方
自分: 「お声がけありがとうございます。今日は体調があまり良くなくて、定時で失礼したいのですが、明日の午前中に対応するのではいかがでしょうか?」

🏢 職場:上司の方針に疑問があるとき

❌ 我慢タイプ
自分: (おかしいと思うけど、上司に逆らえない…黙ってやろう)
❌ ぶつけタイプ
自分: 「それ、うまくいかないと思いますけど」
✔️ ちょうどいい伝え方
自分: 「ひとつ確認させてください。〇〇の方針、背景を教えていただけますか? そのうえで、現場の状況も共有させていただけたらと思いまして」

🏠 家庭:パートナーに家事の偏りを伝える

❌ 我慢タイプ
自分: (私がやればいいんでしょ…とイライラしながら黙って片づける)
❌ ぶつけタイプ
自分: 「なんで私ばっかりやらなきゃいけないの? あなたは何もしないよね!」
✔️ ちょうどいい伝え方
自分: 「最近、お互い忙しいよね。実は家事がちょっと回りきらなくなってきてて。負担を減らす方法、一緒に考えてくれない?」

🏠 家庭:義理の家族との距離感

❌ 我慢タイプ
自分: (毎週末の訪問がつらいけど、嫁の立場で断れない…)
❌ ぶつけタイプ
自分: 「もう毎週は行きたくない。あなたの親なんだから一人で行って」
✔️ ちょうどいい伝え方
自分: 「お義母さんたちに会えるのはうれしいんだけど、正直、毎週だと少し疲れが出てきてて。月2回くらいにして、その分ゆっくり過ごせたらいいなと思うんだけど、どうかな?」

🏥 医療場面:薬の不安を伝える

❌ 我慢タイプ
自分: (副作用がつらいけど、先生に言いづらい…このまま飲み続けよう)
❌ ぶつけタイプ
自分: 「この薬、全然効かないんですけど。変えてください」
✔️ ちょうどいい伝え方
自分: 「先生、ちょっと聞いてもいいですか? お薬を飲み始めてから朝のだるさが気になっていて。量やタイミングについて相談させてもらえますか?」

🏥 医療場面:治療のことを聞きたいとき

✔️ ちょうどいい伝え方
自分: 「先生にお世話になっていてありがたいです。治療のことで気になっていることがあるので、お時間いただいてもいいですか?」

ポイント:「先生、ちょっと聞いてもいいですか?」から始めると、お互いに構えずに話しやすくなります。

👩‍👧 日常:ママ友・PTAの誘いを断る

❌ 我慢タイプ
自分: 「…あ、はい。大丈夫です、やります」(また断れなかった…)
❌ ぶつけタイプ
自分: 「無理です。なんで私に回ってくるんですか?」
✔️ ちょうどいい伝え方
自分: 「声をかけてくださってありがとうございます。今年はちょっと家庭の事情で引き受けるのが難しくて。来年なら前向きに考えられると思います」

💇 日常:美容院で「ちょっと違う」と言う

❌ 我慢タイプ
自分: 「あ、大丈夫です、いい感じです」(全然違うけど…もう言えない)
❌ ぶつけタイプ
自分: 「これ、頼んだのと全然違うんですけど」
✔️ ちょうどいい伝え方
自分: 「ありがとうございます。すみません、もう少しだけ前髪を軽くしてもらうことはできますか? イメージとしてはこんな感じで…」

断ることへの罪悪感

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「断る=悪い」は思い込み

断ることに強い罪悪感を持つ人は多いです。「申し訳ない」「嫌われるかも」と感じてしまう。でも、考えてみてください。

  • 我慢し続けて、ある日突然キレたり、関係を切ったりするほうが、よほど「和」を壊す
  • 無理をして引き受けた結果、質が下がったり体調を崩しては本末転倒
  • 正直に断ってくれる人のほうが、実は信頼される
  • あなたにも断る権利がある。それは相手を嫌いだからではなく、自分を大切にしているから
💡 断り方の型

この4ステップを覚えておくと、とっさのときにも使えます。

  • ① ありがとう:まず感謝から。「誘ってくれてありがとう」「声をかけてくれてうれしい」
  • ② 今回は難しい:シンプルに断る。「今回はちょっと難しくて」
  • ③ 理由(言いたければ):無理に言う必要はない。「体調が」「予定が」でOK
  • ④ 代わりの提案(あれば):「来月ならどうかな?」「他のことなら手伝えるよ」
🔄 「ごめんなさい」より「ありがとう」

NG:「ごめんなさい、行けなくて…本当にすみません…」(罪悪感が強まる)

OK:「誘ってくれてありがとう! 今回は難しいけど、また声かけてね」(前向きな印象)

「ごめんなさい」で始めると自分も相手も重くなりがちです。「ありがとう」で始めるだけで、印象がガラリと変わります。

伝えたけど、うまくいかないとき

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「伝えたのに、変わらない」

勇気を出して伝えた。でも聞いてもらえない、逆ギレされた、変わる気がない——そんなとき、どうすればいいのか。伝え方の問題ではなく、相手の問題・関係性の問題に踏み込んだ詳しいガイドを別ページにまとめました。

伝えても無理なとき →
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当院でできること

「伝え方」は知識だけでなく、実際に練習することでうまくなります。

  • 対面カウンセリングでロールプレイ — 実際の場面を想定して練習
  • 「言えない」の背景にある思考パターンを一緒に検討
  • 伝えても変わらない相手との関係をどうするか、一緒に整理
  • 社交不安が強い場合のお薬の併用
  • 「察してほしい」が強すぎる場合の認知行動療法

気になる方は、診察時にお気軽にご相談ください。

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お互いにわかり合おうとすること

「自分の気持ちを伝えること」がゴールではありません。
「お互いにわかり合おうとすること」がゴールです。

完璧に伝える必要はありません。
「伝えようとした」こと自体が、関係を変える一歩です。

📚 参考資料
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