🔍

「発達障害かどうか、
診てほしい」

診察で、実際に何をするのか

ずっと生きづらさがあって、あるとき発達障害という言葉を知って、これかもしれないと思った。
そう思って受診を考えている方に、診察で実際に何が起きるのかを、先にお伝えしておきます。

大げさにも、過小にもしないつもりです。「調べてほしい」と言いに来ていただいて構いません。ただ、来る前に知っておくと楽になることが、いくつかあります。

診断は、3つがそろったときに
つきます

発達障害の診断は、特性の数で決まるものではありません。次の3つが全部そろって、はじめて診断という言葉を使います。

1
特性がある
不注意、衝動性、こだわり、感覚の過敏さ、対人的なやりとりの難しさなど。ただしこれ単独では診断になりません。特性そのものは、程度の差はあれ誰にでもあるものだからです。
+
2
生活に支障が出ている
仕事、学業、家事、人づきあいのどこかが、実際に回らなくなっていること。診断の線は、特性の濃さではなく、この支障の大きさで引かれます。これは医学上の約束事です。
+
3
子どもの頃から続いている
発達特性は、生まれつきの脳の働き方の違いです。大人になってから新しく始まったものは、原則として発達障害ではありません。ここがいちばん見落とされやすいところで、診察でくわしく伺うのもここです。
3つのうち、たとえば ① と ② はあるけれど ③ が確かめられない——こういうことはとてもよくあります。そのときの答えは「あなたは発達障害ではありません」ではなく、「特性はありそうだが、いま診断という言葉を使う段階ではない」です。困りごとが本物であることは、何も変わりません。
🔬 なぜ「支障」で線を引くのか

特性は連続的につながっていて、どこかに自然な切れ目があるわけではありません。それでも診断という区切りを置くのは、お薬や配慮や福祉の制度を使うために、線が必要だからです。つまり診断は、あなたがどんな人かを言い当てる名前ではなく、道具を使うための手続きに近いものです。

よく挙がる項目は、
こう読むと変わります

ネットで見かける項目は、言葉が短いぶん、どうしても広く読めてしまいます。ここでは「よくある読み方」と「診察で実際に見ているところ」を並べます。当てはまる数を数える必要はありません。数えても答えは出ないからです。

仕事でミスが多い
よくある読み方
入力を間違える、確認を飛ばす、日程を取り違える。——忙しければ誰にでも起こります。
診察で見ているところ
同じ種類のミスをくり返すか。チェックリストを作る、ダブルチェックを入れるといった手を打ってもなお起きるのか。
どの職場でも同じだったか。いまの職場に来てから増えたのなら、仕事の量や相性、あるいは気分や睡眠のほうを先に考えます。
そして学生時代の提出物やテストでも同じ傾向があったか。ここが3つ目の要件につながります。
忘れ物・なくし物が多い
よくある読み方
鍵や財布をよくなくす。人の名前が出てこない。——これは多くの方に当てはまります。
診察で見ているところ
対策を立てても、同じ失くし方をくり返すか。置き場所を決める、リマインダーを使うといった工夫をしてもなお起きるのか。そして、それによって実際に何かを失っているか(遅刻が重なって評価が下がった、契約を落とした、など)。
空気が読めない・場にそぐわないことを言ってしまう
よくある読み方
飲み会で失言した。相手を怒らせたことがある。——誰にでも経験があります。
診察で見ているところ
あとから気づくのか、今も分からないままなのか。そして相手や場面を選ばず一貫して起きるのか。特定の人の前でだけ、あるいは緊張する場面でだけ起きるのなら、不安や対人緊張のほうを先に考えます。
音・光・においがつらい
よくある読み方
人混みや蛍光灯がしんどい。生活音が気になって集中できない。
診察で見ているところ
いつからか。子どもの頃から一貫してそうなのか、ここ数年で始まったのか。最近始まった過敏さは、うつや不安、睡眠不足、ホルモンの変化などで起きていることのほうが多いので、そちらを先に確かめます。
段取りが立てられない・先延ばしする
よくある読み方
やらなきゃと思いつつ手がつかない。締め切り直前まで動けない。
診察で見ているところ
調子のよい時期でも同じか。気分が落ちている時期だけ動けないのなら、うつのほうを先に扱います。また仕事量そのものが人間の処理量を超えていないかも確かめます。量が過剰なら、誰でも段取りは崩れます。
人の話が頭に入らない・聞いていられない
よくある読み方
会議の内容が入ってこない。相手の話を最後まで聞けない。
診察で見ているところ
睡眠がとれているか。聴力は下がっていないか。この2つは意外なほど多く、どちらも発達特性とよく間違われます。眠りが浅い状態が続くと、注意の働きは実際に落ちます。

💡 読み方のコツは「頻度・場面・いつから」

項目そのものより、どれくらいの頻度で/どんな場面で/いつからのほうが情報量があります。「ある・ない」ではなく、この3つで自分のことを説明できるようにしておくと、診察が一気に進みます。整理シートはそのために作りました。

1回では決まりません

発達特性の見立ては、血液検査のように「その日に数値が出る」ものではありません。いくつかの情報を集めて、重ね合わせて判断します。

🗣️
いま困っていることを、場面ごとに伺います
「不注意があります」ではなく、「先週、こういう場面で、こうなった」という具体が役に立ちます。
🎒
子どもの頃のことを伺います
幼稚園・小学校の頃はどうだったか。ここが3つ目の要件の確認です。覚えていなくて構いません。あとから調べる方法があります。
📄
手がかりになる資料があれば拝見します
母子手帳、通知表(所見欄)、連絡帳、卒業文集など。持っていない方のほうが多いので、無ければ無いで進みます。ご家族に当時のことを聞ける方は、それも情報になります。
🧩
必要に応じて心理検査を行います
全員に行うわけではありません。自費でお受けしている検査もあるので、必要かどうかは一緒に決めます。次の章でくわしくお話しします。
🔎
ほかの原因がないかを確かめます
うつ、不安、睡眠、体の病気など。ここを飛ばすと、見立てを間違えます。

どれくらい通うと結論が出ますか

これは方によってかなり違います。情報がそろっていて像がはっきりしている方もいれば、まずうつや睡眠の問題を整えてから、あらためて見直したほうがよい方もいます。後者の場合、数か月かけることもあります。

急いで結論を出すことが目的ではありません。間違った名前がつくことのほうが、あとで困ります。具体的な見通しは、初診のときに一緒に立てましょう。

検査を受ければ
白黒がつく、ではありません

ここは誤解がとても多いところです。知能検査(WAIS、WISCなど)は、「発達障害かどうか」を判定する検査ではありません。

これらの検査でわかるのは、得意なことと苦手なことの凸凹の形です。言葉で理解する力、目で見て捉える力、短く覚えておく力、作業の速さ——こういったものを測って、その人の中での差を見ます。

検査でわかること

どの場面でつまずきやすいか。どんな伝え方なら入りやすいか。職場や学校に配慮をお願いするときの、根拠のある説明材料。「あなたはこうすると楽になる」という手がかりが得られます。

検査でわからないこと

発達障害かどうか、そのものです。凸凹が大きい人にも診断がつかないことがあり、凸凹が小さい人に診断がつくこともあります。診断は、検査の結果だけでなく、困りごとの内容と、子どもの頃からの経過を合わせて判断します。

当院での知能検査について

大人の方の場合、WAIS-IV(全下位検査)+結果説明30分という形で行っています。所要時間は約2時間30分(検査2時間+説明30分)です。結果はその場ではなく、後日あらためて時間をとってご説明します。

全項目をていねいに実施し、後日あらためて時間をとってご説明する形をとっています。保険の範囲では、これだけの時間と詳しい報告をお出しすることが難しいため、当院では自費でお受けしています(33,000円・2026年9月現在)。

全員に行うものではありませんし、受けなくても診察は進みます。必要かどうかは、お話を伺ったうえで一緒に決めましょう。

お子さんの場合はWISC-Vを使い、保護者面接と報告書がつきます。最新の料金やメニューは、当院ホームページの「自費メニュー」でご確認ください。

💴 自費メニュー(当院ホームページ) 知能検査などの料金・所要時間の最新情報はこちら
検査は、白黒をつける装置ではなく、自分の説明書を作る作業に近いものです。
診断がついてもつかなくても、その説明書は使えます。

このアプリに、発達特性の
チェックを置いていない理由

このアプリには、気分や不安、お酒の量などをはかるチェックがいくつかあります。でも発達特性のチェックは、あえて置いていません。

理由は2つあります。ひとつは、短い項目に「はい・いいえ」で答える形では、さきほどの3つ目の要件(子どもの頃から続いているか)が確かめられないこと。もうひとつは、点数が出ると、それが答えのように感じられてしまうことです。

医療機関で使う質問紙もありますが、あれは診察の中で、ほかの情報と一緒に読むための道具です。単独では診断になりません。

当院で使う質問紙(CAARS)について

当院では、大人のADHDの症状を評価する補助として CAARS という質問紙を使うことがあります。紙に記入していただく形式で、15分ほど。こちらも当院では自費でお受けしています(3,300円・2026年9月現在)。

ただし、これも単独では診断になりません。点数が高くても診断がつかないことがありますし、低くても診断がつくことがあります。伺ったお話や、子どもの頃からの経過と合わせて読んで、はじめて意味を持ちます。

受けるかどうかは、必要に応じて診察でご相談します。ご自分から申し出ていただいても構いません。

💡 ネットのチェックをやってみた方へ

やってみたこと自体は、まったく問題ありません。結果よりも、「なぜやってみようと思ったのか」のほうが大事な情報です。そのきっかけになった出来事を、診察で教えてください。そこから始めるのがいちばん早いです。

立ち止まったほうがよいとき

初回の短い問診だけで診断名がつく、その日のうちにお薬が出る、高額な講座や資格をすすめられる——こういう場面に出会ったら、一度立ち止まってください。子どもの頃の情報を確かめずに発達障害の診断をつけることは、本来できません。

📝 受診前の整理シートを書く 困りごと・場面・子どもの頃のこと・聞きたいことを整理しておけます

発達障害では
なかった場合に考えること

生きづらさの正体は、発達特性だけではありません。診察では、これらを並行して確かめています。どれも「気のせい」ではなく、手当ての方法がはっきりしているものばかりです。

「診断がつかなかった」と言われたら

それでも困りごとは残ります。そのときのための専用のページを用意しています。診断がつかなかったことの意味と、そこから何ができるかをまとめてあります。

🌗 診断がつかなかったあなたへ(ADHDグレーゾーン) 診断の線はどこに引かれるのか、診断がなくても使える工夫

「こんなことで受診していいのか」と
迷っている方へ

診断がつくかどうかわからないまま来ていただいて、まったく構いません。むしろ、それがふつうです。

「発達障害かどうか調べたい」と受付で言っていただければ、それで伝わります。うまく説明できなくても大丈夫ですし、このページや整理シートを開いて見せていただくだけでも、話が早く進みます。

そして、これは何度でもお伝えしたいことですが——診断がつかなくても、困っていることには手当てができます。名前がつくかどうかと、楽になれるかどうかは、別の話です。

長いあいだ、自分の努力が足りないのだと思ってこられたかもしれません。
その見方を手放すのに、診断名は必ずしも要りません。
まず、何にどう困っているのかを、一緒に言葉にするところから始めましょう。

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