「死にたい」があるとき、
初診で聞かれること
—— 外来で続けられるのか、入院をすすめられるのか ——
- 正直に話したからといって、そのまま入院になるわけではありません。ほとんどの方が、外来で治療を続けています。
- たくさん質問されますが、詮索ではありません。安全に外来で診られるかを見極めるために、どうしても必要なことです。
- 隠されるのが、いちばん困ります。本当のことが分からないと、安全な計画が立てられません。
初診で決めたいのは、ひとつだけ
「死にたい」気持ちを抱えて受診を決めた——それだけで、とても大きな一歩です。まず、そこまで来られたことを、ちゃんと受け取らせてください。
そのうえで、初診の診察で私たちが見極めたいことは、じつはひとつだけです。
外来の通院は、ふつう1〜2週間に1回です。その間隔のあいだ、安全に過ごせるかどうか——判断しているのは、そこです。
病名をつけることも、薬を決めることも、初診では急ぎません。まず安全、それから治療の順番です。
正直に話したら、入院させられる?
これがいちばん心配されるところだと思います。だから、隠さずに書きます。
「死にたい」と話しただけで入院になることは、ありません。希死念慮を抱えている方の多くは、外来に通いながら回復していきます。実際、当院に通っておられる方のなかにも、その気持ちを抱えながら日々を過ごしている方が、たくさんいらっしゃいます。
入院をおすすめするのは、「次の診察まで待てない」と判断したときです。あとで具体的に書きます。
ご本人の同意がないまま入院する仕組み(医療保護入院・措置入院)も、法律のうえでは確かにあります。ただしこれは精神保健指定医の診察が必要で、条件も手続きも法律で細かく決められているもので、めったに使われるものではありません。
使うとすれば、いますぐ命に関わる状態で、ご本人が判断できる状態にないようなときです。「死にたい気持ちがあります」と話せている方は、その状態とは違います。
くわしくは「外来でできること、入院が必要なとき」にまとめてあります。
そして、いちばん困るのは——入院がこわくて、本当のことを言えないまま帰られることです。実際より軽く話されると、こちらは安全な計画を立てられません。薬の量も、次の診察までの間隔も、誤って決めてしまいます。
正直に話していただくほうが、結果的に、入院から遠ざかります。
初診で聞かれること
数が多くて、驚かれるかもしれません。答えたくないことは「それは話したくない」で大丈夫です。それも大事な情報として受け取ります。
なぜ聞くのかも、一緒に書いておきます。
「死にたい」と考えるだけなのか。方法を考えたことがあるか。準備をしたことがあるか。日時や場所まで決めたことがあるか。実際に行動に移したことがあるか。
なぜ聞くか——考えと、計画と、準備では、必要な対応がまったく違うからです。ここがいちばん大事な質問です。
ため込んだお薬、刃物、紐、そのほか考えている手段が、いま家にあるかどうか。
なぜ聞くか——衝動は波で来ます。その波のときに手が届く場所に何があるかで、安全度が大きく変わります。遠ざける相談をするために聞いています。
何時に寝て何時に起きるか。眠れない日が続いていないか。体重が減っていないか。
なぜ聞くか——不眠はそれ自体が危険を高めます。そして食べられない・飲めない状態が続くと、体のほうが先に危なくなります。
飲む量と頻度。つらいときに飲んでいないか。市販薬を多めに飲んでいないか。
なぜ聞くか——お酒は、ふだんなら抑えられる衝動のブレーキを外します。責めるためではなく、いちばん危ない組み合わせを避けるために聞いています。
ひとり暮らしか。今日このあと、家に誰かいるか。連絡の取れる人がいるか。
なぜ聞くか——今夜ひとりで過ごせるかどうかは、外来で診られるかの判断に直結します。
家族のこと、ペットのこと、仕事のこと、信じていること——「それでも死ななかった理由」。
なぜ聞くか——つらい話ばかり聞いているようで、じつはここがいちばん大事な支えです。苦しい日に、もう一度思い出していただくために確かめています。
いつごろから続いているか。以前に同じようなことがあったか。過去に行動に移したことがあるか。そのとき、どうやって助かったか。
なぜ聞くか——つらい記憶を話していただくことになりますが、過去にあったことは、いまの危険度を測るうえで重い意味を持ちます。
持病、痛み、他科でもらっている薬。お薬手帳があれば、それがいちばん早いです。
なぜ聞くか——体の病気や薬が、気分に影響していることがあります。また、処方を決めるうえで欠かせません。
仕事、人、お金、健康、役割。この数か月で大きく変わったこと。
なぜ聞くか——喪失の直後は、危険が高まりやすい時期です。そして、そこが手当てすべき場所でもあります。
「死ね」と聞こえる声がないか。自分が罪深い・取り返しがつかないという確信がないか。
なぜ聞くか——こうした症状があるときは、治療の組み立てが変わります。変なことを聞かれていると思われるかもしれませんが、必ず確かめています。
自分で決めて来たのか、誰かに言われて来たのか。来ることに迷いはあったか。
なぜ聞くか——治療を一緒に進めていけるかどうかの、手がかりになります。いやいや連れて来られた場合は、まずそこから話します。
入院をおすすめすることがあるのは
基準をはっきり書いておきます。こういうときは、外来で次の診察まで待つのは危ないと判断します。
- 具体的な計画と手段がそろっていて、自分で止められる自信がないとき
- つい最近、実際に行動に移したとき
- 強い焦りと不眠が続いていて、衝動が抑えられないとき
- 「死ね」という声が聞こえる、取り返しがつかないという確信があるなど、判断そのものが症状に影響されているとき
- お酒や薬で、自分をコントロールできなくなることがくり返されているとき
- 食べられない・飲めない状態が続き、体が弱ってきているとき
- 今夜ひとりで、安全に過ごせる見通しが立たないとき
裏を返せば、これらに当てはまらなければ、外来で続けられるということです。そして実際には、当てはまらない方のほうがずっと多いのです。
当院は、入院設備のないクリニックです。
入院が必要と判断したときは、入院できる病院へ、責任をもって紹介します。それは見放すことではなく、バトンを渡すことです。
そして——危険が去ったら、また戻ってきてください。退院したあとの時期こそ、かかりつけの出番です。
持ってきていただけると助かるもの
- お薬手帳(いまの処方が一度で分かります)
- これまでに通った医療機関の名前(紹介状がなくても大丈夫です)
- 保険証、お持ちであれば自立支援医療の受給者証
- 話したいことを書いたメモ(うまく言えなくても、渡していただければ読みます)
- このアプリの記録(気分の記録、セルフチェックの結果など。画面を見せていただくだけで十分です)
そろっていなくても、受診はできます。手ぶらで来ていただいて、かまいません。
口に出して言えないときは
いちばん大事なことほど、診察室では言いにくいものです。声に出さなくても、伝える方法があります。
紙に書いて渡していただくか、スマホの画面を見せてください。
「死にたい気持ちがあります。口では言いにくいので、これを読んでください。」
これだけで十分に伝わります。あとはこちらから聞いていきます。
付き添いの方がいる場合、「ひとりで話したい」と言っていただいてかまいません。席を外していただきます。逆に、「一緒にいてほしい」もできます。
🤝 これからのことを、一緒に決めておく
診察の終わりに、次の診察までをどう過ごすかを、一緒に決めます。
決めるのは、だいたいこの4つです。
- つらくなったとき、まず自分で試すこと——深呼吸、散歩、音楽、お風呂。何が効くかは人によって違います
- それでもだめなときに、連絡する人——名前と連絡先を、具体的に決めておきます
- 手段になるものを、どう遠ざけるか——誰に預けるか、どこにしまうか
- 次の診察まで待てないときの連絡先——夜間・休日の窓口も含めて
この4つを書きとめておけるように、アプリに「セーフティプラン」があります。診察で決めたことを、そのまま入れておいてください。苦しい日は考える力そのものが落ちるので、元気なうちに書いておくことに意味があります。
記録はお使いの端末の中だけに保存されます。診察では、画面を見せていただくだけで十分です。
計画どおりにいかない日は、必ずあります。守れなかったからといって、責められることはありません。
できなかったときこそ、そのまま教えてください。「決めたことができませんでした」と言ってもらえるほうが、次の計画をちゃんと立て直せます。隠れて一人で抱えてしまうことだけが、いちばん心配です。
診察のあと、どうなるか
初診の終わりには、たいてい次のことが決まります。
- 次の診察日——危ないと感じるときは、1週間を待たずに来ていただくこともあります
- つらい波のときに使える頓服——必要に応じて。まとめてお渡しするかどうかも、安全を見て決めます
- 次の診察まで待てないときの連絡先
- 環境のこと——休職が必要なら診断書を書きます。使える制度のご案内もします
そして——初診で全部を話す必要はありません。話せるところまでで大丈夫です。残りは、通いながら少しずつで、かまいません。