〜 「変わりたい気持ち」を見つけて育てる 〜
説得しない。指示しない。それでも、変わるほうへ進んでいく。——そういう話し方の技術です。
アルコール依存の治療から生まれ、いまでは薬物・ギャンブル・ゲーム、禁煙、生活習慣、服薬、受診をためらっている方への関わりまで、幅広く使われています。
両価性のある人に「やめたほうがいいですよ」と説得すると、何が起きるでしょうか。
その人は、反対側の気持ちを言葉にします。「でも、それしか楽しみがなくて」「でも、やめたら眠れないんです」。——説得されるほど、本人が「変わらない理由」を口に出すことになるのです。
そして、人は自分が口に出したことを信じるようになります。だから説得は、変わらない方向へ本人を固めてしまいます。
動機づけ面接は、この向きを逆にします。「変わりたい理由」のほうを、本人の口から出してもらうのです。
動機づけ面接は、「変わったほうがいいのはわかっている。でも動けない」という場面に向いています。
依存の領域から広がってきました。
医療者だけの技術ではありません。
説得しない=放っておく、ではありません。動機づけ面接は、はっきり方向を持った関わりです。
やめたほうがいいと考えていることは伝えます。心配していることも伝えます。ただし、押しつけずに、選ぶのは本人だという前提を崩さない。そして、本人の中にある「変わりたい」を丁寧に拾い、そこを大きくしていきます。
基本の道具が4つ(OARS)、進み方が4段階あります。診察の場だけでなく、ご家族との会話でも使えます。
「はい/いいえ」で終わらない聞き方をします。
「お酒、減らせそうですか?」(閉じた質問)ではなく、「お酒について、いまどんなふうに感じていますか?」(開かれた質問)。
前者は答えが2つしかありませんが、後者は本人が自分の言葉で考えることになります。ここから会話が始まります。
「今日ここに来られたこと自体、簡単ではなかったと思います」
「先週は2日、飲まない日があったんですね」
お世辞ではなく、事実として認められることを、そのまま言葉にします。責められると身構えますが、認められると、人は自分から話しはじめます。
動機づけ面接の中心技法です。相手の言ったことを、少し形を変えて返します。
「やめたいけど、やめられないんです」
→ 「やめたい気持ちは、はっきりあるんですね」
ここで「やめられない」ではなく「やめたい」のほうを拾って返すのがポイントです。返された側は、その気持ちをもう一度たしかめ、続きを話し出します。
ここまでの話をまとめて返します。このとき、「変わりたい」側の発言を集めてまとめるのがコツです。
「体のことが心配で、娘さんにも言われていて、朝つらいのもわかっている。でも夜の時間の過ごし方が思いつかない、ということですね」——自分の言葉が並べて返されると、本人の中で像がはっきりします。
会話全体は、①関わる(信頼をつくる)→ ②焦点を定める(何について話すか決める)→ ③引き出す(変わりたい理由を本人から)→ ④計画する(具体的にどうするか)という順で進みます。
大事なのは、③が育つ前に④へ行かないこと。「じゃあこうしましょう」を早く出しすぎると、そこで会話が止まります。多くの失敗は、この順番の飛ばしから起きます。
ご家族の関わりで、いちばん効果が変わるのはここです。
右側が間違っているのではありません。当然の気持ちです。ただ、両価性のある相手に対しては、反対側の気持ちを強めてしまう——それだけのことです。
動機づけ面接は、依存の領域を中心に、多くの研究で効果が確かめられています。
特徴的なのは、短時間でも効果が出ることです。1〜2回の面接でも、飲酒量の減少などの変化が報告されています。また、他の治療への導入がうまくいく——治療を続ける人が増える、という効果も繰り返し示されています。
さらに、面接の中で本人が「変わりたい」側の発言(チェンジトーク)をどれだけ口にしたかが、その後の実際の行動変化を予測する、という研究があります。「本人が口に出すほど変わる」という前提には、裏づけがあります。
相手が「でも」と言い出したときは、こちらが押しすぎているサインです。
そこで押し返すのではなく、いったん引いて、相手の言い分をそのまま聞き返す。すると不思議なことに、相手のほうから「まあ、体には悪いんですけどね」と言い出すことがあります。押されなくなると、人は自分でバランスを取り戻すのです。
「変わりたい/変わりたくない」を自分で整理してみるワークと、関連する解説です。