〜 家から出なくなった人と、どう関わるか 〜
家族が家から出なくなったとき、多くのご家族が「自分の育て方が悪かったのでは」と考えます。そして、そう言ってくる親族や知人も、残念ながらいます。
はっきりお伝えします。ひきこもりは、育て方だけで起きるものではありません。本人の特性、学校や職場での出来事、体調、時代の状況——いくつもの要素が重なって起こります。
そして、原因探しは回復の役に立ちません。「なぜこうなったか」より「これからどうするか」のほうが、ずっと実りがあります。
この状況は、何年も続くことがあります。ご家族が倒れてしまっては、支えるものがなくなります。
このページの最後に、ご家族自身のためのことを書きました。本人のことより先に、そちらを読んでいただいてもかまいません。
どれも本人を思ってのことです。悪気があってするわけではありません。ただ、結果として状況を固めてしまうことがわかっています。
「これからどうするつもりなの」「いつまでこうしているの」「少しは考えているの?」
心配からの言葉ですが、本人には答えのない問いとして届きます。答えられないので、黙る・部屋に戻る・会話を避ける——という反応になります。
そして次からは、顔を合わせること自体が「問い詰められる時間」になり、接点そのものが減っていきます。
「〇〇さんちの子は就職したって」「近所の目もあるから」「お父さんが恥ずかしい思いをする」
本人がいちばん気にしているのが、まさにそこです。すでに十分に恥じています。そこを刺激されると、外に出る=人に見られる=恥をかくという結びつきがさらに強くなります。
結果として、外出のハードルが上がります。意図とは逆の効果です。
お金を渡さない。食事を出さない。ネットを切る。部屋のドアを外す。無理やり連れ出す。
「このままではいけない」という思いからの行動ですが、効果がないばかりか、危険を伴います。本人が強く反発して暴力的になる、逆に完全に部屋から出てこなくなる、最悪の場合は自傷につながることがあります。
特に「無理やり連れ出す」業者には、深刻なトラブルが報告されています。費用を払っても状況が悪化することがあります。公的な相談窓口を先にお使いください。
会話が続かなくてかまいません。「今日は寒いね」「ごはん置いておくね」——返事がなくても、声をかけ続けます。
ポイントは、返事を求めない形にすることです。質問にすると答える義務が生まれ、答えられないので避けられます。報告・独り言の形にすると、負担なく届きます。
ドア越しでも、メモでも、LINEでも大丈夫です。「関心を向け続けている」ことが伝わればいいのです。
「これからどうするの」は、本人がいちばん答えられない質問です。かわりに、今日・明日の具体的な話をします。
「お茶いる?」「この番組おもしろかったよ」「ちょっと手を貸してくれる?」
「手を貸して」は特に効きます。頼られることは、本人にとって「まだ役に立てる」という感覚につながるからです。荷物を持つ、電球を替える、パソコンを見てもらう——小さいほどいいのです。
本人が少し外に出た。人と話した。——うれしいのは当然ですが、ここで大きく反応すると逆効果になることがあります。
「よかった!これで安心ね」「その調子で明日も」と言われると、本人は「期待に応え続けなければ」と感じ、プレッシャーで次が出にくくなります。
「そうなんだ」くらいで、いつもどおりにしておく。これが、続けやすい環境になります。
右側が出てしまうのは、ご家族が追い詰められているサインでもあります。責任を感じるほど、言葉は強くなります。ご自身を責めないでください。
関わり方の基本は同じですが、年代ごとに事情と使える制度が違います。該当するところをご覧ください。
いちばん大事なのは、学校とのつながりを細く保つことです。完全に切れてしまうと、戻る道がなくなります。担任・スクールカウンセラー・教育支援センターと、親ごさんが連絡を取り続けてください。本人が会わなくてもかまいません。
「行きなさい」と毎朝言うのは、たいてい逆効果です。かわりに「今日は休むのね」と決めてしまい、その日の予定を立てるほうがうまくいきます。宙ぶらりんの時間がいちばんつらいからです。
体の病気が隠れていることもあります。朝起きられない、立つと気分が悪い、といった場合は起立性調節障害の可能性があります。一度は小児科や内科で診てもらってください。
この年代は、親が先回りしすぎると本人の動きを止めてしまいます。手続きを全部やってあげる、求人を探して渡す、代わりに電話をかける——よかれと思ってのことですが、「自分は何もできない」という感覚を強めます。
かわりに、「情報だけ置いておく」のがおすすめです。窓口のパンフレットを机に置く、URLを送るだけ送る。感想を求めない。読むかどうかは本人に任せます。
また、この年代は制度が最も充実しています。まだ若いうちに相談につながると、選べる道が多く残ります。
休職や退職がきっかけの場合、最初の1ヶ月は「しっかり休ませる」のが正解です。ここで焦らせると回復が遅れます。
ただし、2ヶ月目以降は少しずつ生活を動かす時期に変わります。この切り替えを、ご家族だけで判断しないでください。主治医と相談しながら進めるのが安全です。
配偶者の方の場合、「働いていないこと」に触れるかどうかで悩まれます。目安としては、収入や手続きの実務的な話はしてよい、ただし人格や努力の話にはしない——ここを分けると伝わりやすくなります。
高齢のご本人の場合、外出が減ることは体力・認知機能・気分のすべてに影響します。「年だから」で片づけず、週に1回でも約束のある予定を一緒に作ってください。地域包括支援センターは、介護認定がなくても相談できます。
そして、高齢の親ごさんが中年のお子さんを支えている場合。いわゆる8050問題です。ここでいちばん大事なのは、親ごさんが元気なうちに、外部とつながっておくことです。
「自分たちがいなくなったらどうなるか」という不安を抱えたまま、誰にも相談できずにいるご家庭が本当に多くあります。親の代で相談の入り口を作っておくことが、いちばんの備えになります。
いちばん多い誤解が「本人を連れて行かないと相談できない」というものです。公的な窓口なら、ご家族だけで相談できます。
ここで大事な注意点です。病院やクリニックは、ご本人が受診されないと診療ができません。ご家族だけでお越しいただいても、診察も治療もできません。健康保険が、ご本人を診察して初めて使えるしくみだからです。ご家族だけのご相談を受けているのは、下記の公的な窓口です。
お住まいの自治体名と一緒に検索すると出てきます。
専門家より、同じ経験をした家族の話のほうが届くことがあります。
高額な費用で本人を連れ出し、施設に入れる——という民間業者があります。訴訟になった事例や、本人が深く傷ついた事例が報告されています。
追い詰められているときほど「すぐ解決する」という言葉に引かれますが、まず公的な窓口にご相談ください。無料で、継続して関わってくれます。
何を話せばいいかわからない、というご相談をよくいただきます。次のひとことだけで十分です。
整理してから行く必要はありません。整理を手伝うのが、窓口の仕事です。
ここは、本人のためではなくあなたのためのセクションです。
この状況は、何年も続くことがあります。そして周囲には話しにくい。家庭の中だけで抱えて、少しずつすり減っていくご家族を、たくさん見てきました。
実際、ご家族の側にうつや不眠が出ることは珍しくありません。これは弱さではなく、長期間の負荷に対する自然な反応です。
「自分だけ楽しむのは申し訳ない」と、旅行も外食も友人との約束もやめてしまう方が多くいます。
でも、ご家族が家に閉じこもると、家庭全体が閉じます。本人にとっても、家の外の空気が入ってこなくなるのはよくありません。
出かけてください。楽しんでください。それは裏切りではなく、この状況を長く支えるために必要なことです。
配偶者、きょうだい、親戚。家庭の中で情報を共有している人が1人でもいるかで、負担はまったく違います。
そして、家の外にも1つ。公的な窓口でも、家族会でも、信頼できる友人でもかまいません。「知っている人がいる」という状態を作ってください。
「今年中には」「せめて30歳までには」——期限を置くと、そこに近づくにつれてご家族が焦り、言葉が強くなります。そして本人はそれを敏感に感じ取ります。
かわりに、「いま、どう暮らすか」に目標を置きます。長期戦を前提にしたほうが、結果として早く動くことが多いのです。