〜 出られなくなるには、順番があります 〜
家から出なくなることを、多くの方が「自分の意志が弱いから」だと考えます。ご家族も、そう見えることがあります。
でも実際には、いくつかのことが順番に積み重なってそうなります。しくみがわかれば、どこで手を打てばいいかも見えてきます。
休職した。退職した。学校に行けなくなった。受験や就活でつまずいた。人間関係で傷ついた。大きな病気をした。——家にいる理由ができる、最初の出来事です。
ここまでは、誰にでも起こりうることです。問題は、このあとです。
行く場所がなくなると、起きる時刻を決める理由がなくなります。だんだん夜型になり、やがて昼夜が逆転します。
ここが決定的です。世の中が動いている時間に寝ていると、そもそも人と会えません。役所も病院も店も、昼に開いています。リズムが崩れた時点で、外とのつながりは物理的に切れていきます。
ここがいちばん大事なところです。
会わない日が続くほど、会うのが怖くなります。「何をしてたの?」と聞かれたらどう答えよう。痩せた/太ったと言われたら。気まずい空気になったら。——考える時間だけはたっぷりあるので、想像の中でハードルは上がり続けます。
そして一度上がったハードルは、放っておいても下がりません。
「〇〇の仕事をしている人」「〇年〇組の生徒」——肩書きは、自分の居場所の感覚を支えています。それがなくなると、自分が何者かわからなくなります。
そして「何もしていない自分」が恥ずかしくなり、ますます人に会いたくなくなる——③に戻ります。
きっかけになりやすい出来事は、年代によって違います。ご自分の年代のところだけ読んでいただければ十分です。
きっかけになりやすいこと
学校に行きづらくなった/部活や友人関係のトラブル/進級・進学のタイミング/SNSでのできごと/体調不良(起立性調節障害など)が長引いた。
この年代で気をつけたいこと
昼夜逆転が、他の年代よりずっと早く進みます。ゲームや動画は夜のほうが人が多く、楽しいので、生活が夜に寄りやすいのです。
そして学校は、行かない日が続くほど戻りにくくなる場所の代表です。「勉強が遅れたから」ではなく、教室に入る瞬間が怖くなるからです。
きっかけになりやすいこと
大学の留年・中退/就職活動がうまくいかない/入った会社を早くに辞めた/卒業したが進路が決まらなかった/資格試験に落ちた。
この年代で気をつけたいこと
いちばん危ないのは、「どこにも所属していない期間」です。学校でも職場でもない時期に、生活のリズムを保つ理由がなくなります。
そして同級生が就職していく時期と重なるため、比較による恥の感覚が強く出ます。「みんな進んでいるのに自分だけ」——この気持ちが、人に会うハードルを一気に上げます。SNSは特に影響が大きい時期です。
きっかけになりやすいこと
うつや適応障害での休職/退職・リストラ/介護のための離職/在宅勤務が長期化した/大きな失敗や人間関係の問題。
この年代で気をつけたいこと
休職の最初の1ヶ月がいちばんの分かれ道です。休みはじめは「しっかり休むこと」が治療なので、寝ていて正解です。ところがその状態のまま2ヶ月目、3ヶ月目に入ると、今度は生活が固まってしまいます。
この年代特有の事情として、「働いていない自分」への恥の感覚が非常に強いことがあります。家族を養う立場だとなおさらで、近所の目を避けて昼間に外へ出なくなる方が多くいます。
きっかけになりやすいこと
定年退職/配偶者との死別/病気やけがで動きにくくなった/運転免許を返納した/子どもが独立して家が静かになった。
この年代で気をつけたいこと
「ひきこもり」という言葉が使われにくいぶん、気づかれないまま進みます。本人も周囲も「年だから」で説明してしまうからです。
しかし、外出が減ることの影響はこの年代がいちばん大きく、体力の低下・認知機能の低下・うつが同時に進みます。移動手段を失うことの意味も大きく、免許返納のあとに一気に外出が減る方が少なくありません。
不安なものを避けると、その瞬間はほっとします。そして脳は「避けたから助かった」と学習します。次はもっと避けたくなり、行ける範囲がだんだん狭くなっていきます。
これは不安症の治療でよく知られたしくみで、ひきこもりでもまったく同じことが起きています。だから、家にいる期間が長いほど、出るのに必要なエネルギーが増えます。
実際、支援が早く始まったほうが回復しやすいことが、国内の調査でも指摘されています。
少し出るだけで、ハードルは下がります。上がるのも下がるのも、同じしくみだからです。
「3ヶ月を過ぎたらもうダメ」という話ではまったくありません。何年たっていても、動きはじめれば下がりはじめます。ただ、早いほうが楽だ、というだけのことです。
次のようなことがあるときは、「外に出る練習」より治療が先です。
ひきこもりの背景に、うつ病・不安症・発達特性・統合失調症などが隠れていることは珍しくありません。それが原因なら、そちらを治療するのがいちばんの近道です。
全部やる必要はありません。できそうなものを1つだけ選んでください。
いちばん大事なコツです。多くの方が、この2つをひとまとめにして「無理だ」と感じています。
人に会わずに外に出る方法は、いくらでもあります。夜のコンビニ。早朝の散歩。ベランダに5分。車で少し走る。人のいない時間帯の公園。
まず「外の空気に触れる」だけを回復させます。人と会うのは、そのずっとあとです。
「早く寝よう」はうまくいきません。眠くないのに布団に入っても眠れないからです。
そのかわり、起きる時刻だけを決めます。何時に寝たかに関係なく、同じ時刻に起きる。そして起きたらカーテンを開けて光を入れる。これだけで、体内時計は少しずつ戻ります。
眠い日があってかまいません。昼寝は午後3時までに、30分以内なら大丈夫です。
何もしていない状態が続くと、自分の居場所の感覚が薄れます。だから、小さくていいので担うものを残します。
ゴミ出し。洗い物。犬の散歩。米を研ぐ。宅配を受け取る。植木の水やり。——「ありがとう」と言われる機会が週に何回かある、それだけで違います。
ご家族に「これは自分がやる」と伝えておくと、続きやすくなります。
会わなくてかまいません。切れないようにするだけで十分です。
スタンプだけ返す。既読をつける。ひとことだけ返信する。それも難しければ、返信しなくていい相手を1人決めておく。
ここで効くのは、「近況を説明しなくていい相手」です。何をしているか聞かれない関係を、1本でも残しておいてください。
気力が戻るのを待っていると、たいてい待ち続けることになります。気力は、動いたあとに出てくるからです。
だから「気が向いたら」ではなく、あらかじめ日時を決めておきます。「火曜の10時に郵便を出しに行く」のように、小さく、具体的に。
これは行動活性化という、うつの治療法そのものです。気合の話ではありません。
ここまで「早いほうがいい」と書いてきました。すでに長い期間が過ぎている方には、読んでいて苦しい内容だったかもしれません。
はっきりお伝えします。何年たっていても、やり直せます。40代・50代になってから動きはじめた方を、実際に何人も知っています。
そして、過ぎた時間を取り戻そうとしなくていいのです。目標は「同年代に追いつくこと」ではなく、「いまより少し楽に暮らせること」で十分です。
長くなっている場合、いきなり外出を目標にすると失敗しやすくなります。
これは意外と知られていません。ご家族だけで相談に行ける窓口がたくさんあります。
「本人を連れてこないと、何も始まらない」——そんなことはありません。
実際には、ご家族が先に公的な窓口へ相談して、関わり方が変わったことで本人が動きはじめるというのが、いちばん多いパターンです。本人を説得する必要はありません。
ひとつだけ、注意点があります。病院やクリニックは、ご本人が受診されないと診療ができません。ご家族だけでお越しいただいても、診察や治療はできないのです(健康保険は、ご本人を診察して初めて使えるしくみのためです)。
つまり、ご家族だけのご相談を受けているのは、上に挙げた公的な窓口のほうです。しかも無料で、継続して関わってくれます。まずはそちらへどうぞ。