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アルツハイマー型認知症

ゆっくり進む病気だからこそ、
今からできる準備と工夫があります

はじめに

「アルツハイマー型認知症です」と告げられた日は、ご本人もご家族も、頭が真っ白になるかもしれません。このページは、その日の夜に、少し落ち着いてから読んでいただくことを想定してまとめました。

全部を一度に読む必要はありません。気になるところから、必要なときに開いてください。「接し方」や「気をつけたいこと」は、あとから何度でも見返せます。

このページでは、病気の方を「ご本人」と呼びます。ご本人が読んでくださることも、大歓迎です。

📌 先にお伝えしたい2つのこと
  • ここに書いてあるのは一般的な情報です。最終的な診断は、診察と検査をもとに医師が行います。「うちの場合はどうか」は主治医にたずねてください。
  • 進み方や出てくる症状には、とても大きな個人差があります。書いてあることが、すべてのご本人に当てはまるわけではありません。

どんな病気か

🧩 たんぱく質が少しずつたまり、神経細胞が減っていく

脳にアミロイドβ(ベータ)というたんぱく質がたまることから始まると考えられています。アミロイドβは、もの忘れなどの症状が出る20年ほど前から、静かにたまりはじめます。

その後、神経細胞の中でタウというたんぱく質の変化が起こり、神経細胞が少しずつ減っていきます。

📍 記憶の中枢「海馬」から始まる

縮み(萎縮)がはじめに目立つのは、海馬という、新しい出来事を記憶としてしまう場所です。そのため、昔のことはよく覚えているのに、最近のことを覚えにくいという形で症状が始まることが多いのです。

📊 どのくらい多く、何歳くらいで始まるか

日本の調査では、認知症の約7割がアルツハイマー型で、もっとも多いタイプです(朝田, 2013)。

高齢になるほど多くなりますが、65歳未満で始まる「若年性」の方もいます。働き盛りや子育て中に診断されることもあり、その場合の支えについては「相談先と関連ページ」でご紹介しています。

最初に気づきやすいサイン

ご家族が「あれ?」と感じるのは、こんな場面が多いです。年齢によるもの忘れとの違いは、体験したこと自体を忘れること、そしてその変化が続いていることです。

🔁 同じことを何度も聞く

「今日は何曜日?」「何時に出かけるの?」と、数分前に答えたことをまた聞く。

👛 しまい忘れ・置き忘れ

財布や鍵、通帳がいつも見つからない。冷蔵庫に同じものがいくつも入っている。

📅 約束や予定を忘れる

通院日や友人との約束を忘れる。言われても「聞いていない」と話す。

🗓️ 日付があいまいになる

今日が何日か、何曜日かがはっきりしない。季節の感覚がずれることも。

🍳 段取りの要る家事が難しい

得意だった料理の味つけが変わる、品数が減る、同じ献立が続く。

🙂 話を合わせて取り繕う

覚えていないことにも「そうそう」と話を合わせる。ご本人なりの気づかいでもあります。

🍂 意欲や趣味への関心が落ちる

好きだった趣味や外出をしなくなる。うつ病と区別がつきにくいこともあります。

こうしたサインに、ご本人がいちばん早く、ひそかに気づいて不安を抱えていることも少なくありません。「最近どう?」と、責めない形で声をかけてみてください。

進み方

アルツハイマー型認知症は、年単位でゆっくり進みます。段階の分け方はひとつの目安で、どのくらいの速さで進むかは人によって大きく違います

MCI
軽度認知障害(MCI)

もの忘れはあるけれど、日常生活はおおむね自分でこなせる段階。認知症の手前の状態で、この段階で気づけると、治療や準備の選択肢が広がります。

軽度

最近の出来事を忘れやすく、お金の管理や買い物、料理など、段取りの要ることに手助けが必要になってきます。身の回りのことはおおむね自分でできます。

中等度

着替えや入浴など、日常のことにも声かけや手助けが必要になります。下で紹介する行動・心理症状が出やすい時期です。

高度

言葉でのやりとりが少なくなり、生活の多くの場面で介助が必要になります。歩くことや飲み込むことが難しくなることもあります。それでも、声の調子や手のぬくもりは伝わります。

🧭 見当識(いつ・どこ・だれ)は、この順に失われやすい

時間場所

まず日付や時刻があいまいになり、次に「ここがどこか」がわかりにくくなり、進むと身近な人がわかりにくくなることがあります。

💭 中等度の時期に出やすい行動・心理症状

  • もの盗られ妄想(「財布を盗られた」と身近な人を疑う)
  • 道に迷う・一人で出て行ってしまう
  • 夕方になると落ち着かなくなる(「家に帰る」と言い出すなど)
  • 興奮する・怒りっぽくなる

これらは、ご本人の性格が変わったのではなく、不安や混乱から生まれる病気の症状です。環境や接し方の工夫、必要に応じた治療でやわらげられることが多い症状でもあります。

⚠️ 「急に」悪くなったときは、早めに相談を

アルツハイマー型認知症は、ふつう何日かで急に悪くなる病気ではありません。急にぼんやりする、急に混乱が強くなったときは、からだの病気(感染症や脱水など)やお薬の影響のこともあります。様子を見続けず、主治医に相談してください。

ほかのタイプとの違い

認知症にはいくつかのタイプがあり、タイプによって気をつけたいことが変わります。色のついた列が、このページのアルツハイマー型です。

表は横にスクロールできます →

アルツハイマー型血管性レビー小体型前頭側頭型
日本での割合(※1)約7割約2割数%(※2)約1%
最初に目立つこともの忘れ(新しいことを覚えにくい)意欲の低下、考えや動作のゆっくりさ幻視、日による調子の波、動きのぎこちなさ性格や行動の変化、言葉の障害
進み方ゆっくり少しずつ脳卒中のたびに段階的に(ゆっくり進むことも)良い日と悪い日の波があるゆっくり、行動の変化が先に目立つ
からだの症状初期は少ない歩きにくさ、飲み込みにくさ、手足のまひ手のふるえ・こわばり、転倒、立ちくらみ、便秘初期は少ない
始まりやすい年代高齢に多い(65歳未満もある)脳卒中の危険因子がある方に多い高齢に多い65歳未満での発症も多い

※1 厚生労働科学研究「都市部における認知症有病率と認知症の生活機能障害への対応」(朝田, 2013): アルツハイマー型67.6%、血管性19.5%、レビー小体型/認知症を伴うパーキンソン病4.3%、前頭側頭型1.0%

※2 レビー小体型は見逃されやすく、実際はもっと多いと考えられている

混合型(アルツハイマー型と血管性が重なるなど)も少なくありません。

診断のために行う検査

ひとつの検査だけで決まるのではなく、いくつかの結果を組み合わせて判断します。

🗣️
問診(ご本人とご家族からのお話)

いつごろから、どんな場面で変化があったか。ふだんの様子を知るご家族のお話は、とても大切な情報です。気づいたことをメモしてお持ちください。

📝
認知機能検査

HDS-R(長谷川式認知症スケール)や MMSE などで、記憶や日付の感覚、計算などを確かめます。点数だけで診断が決まるわけではありません。

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血液検査

甲状腺の働きやビタミンなど、もの忘れの原因になるからだの状態がないかを調べます。

🖼️
画像検査(MRI・CT)

海馬の萎縮の程度を見たり、脳梗塞や出血など、ほかの原因がないかを確かめます。

🌈
脳血流SPECT(必要に応じて)

脳のどの部分の血の流れが落ちているかを見て、タイプの見きわめに役立てます。

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アミロイドPET または 脳脊髄液検査(新しい抗体薬を検討するとき)

後で紹介する抗アミロイドβ抗体薬を検討する場合には、脳にアミロイドβがたまっていることを確認する必要があります。

🌱 「治る可能性のある認知症」がないかも確認します

もの忘れの中には、原因を治療するとよくなる可能性があるものもあります。たとえば、頭を打ったあとに脳の表面にゆっくり血がたまる慢性硬膜下血腫、脳の中の水の流れが滞る正常圧水頭症甲状腺機能低下症ビタミンB12欠乏などです。血液検査や画像検査は、こうした病気を見落とさないためにも行います。

治療

今のところ、アルツハイマー型認知症を元どおりに治すお薬はありません。けれど、進行をゆるやかにするお薬と、お薬以外の工夫を組み合わせることで、ご本人らしい暮らしを長く保つことを目指せます。

💊 これまで使われてきたお薬

お薬の名前特徴
ドネペジル飲み薬。もっともよく使われています
ガランタミン飲み薬
リバスチグミン貼り薬があり、飲み薬が苦手な方にも使えます
メマンチン飲み薬。ほかのお薬と組み合わせて使うこともあります

進行をゆるやかにするお薬で、病気を治すお薬ではありません。「飲んでいるのに悪くなった」と感じることがあっても、お薬がなければもっと早く進んでいた可能性もあります。効き目には個人差があります。

副作用として、吐き気・食欲の低下や、イライラが出ることがあります。気になる変化があれば、自己判断でやめたり増やしたりせず、主治医に相談してください。お薬の個別情報

🆕 新しいお薬(抗アミロイドβ抗体薬)

脳にたまったアミロイドβを取り除くように働くお薬です。レカネマブ(2023年承認)ドナネマブ(2024年承認)があります。

  • 対象になる方: 軽度認知障害(MCI)〜軽度の段階で、検査でアミロイドβの蓄積が確認された方
  • 使い方: 点滴で、定期的に通院します(レカネマブは2週に1回、ドナネマブは4週に1回
  • 副作用: 脳のむくみや小さな出血(ARIA)が起こることがあり、定期的なMRI検査が必要です
  • 実施できる医療機関は限られています

こちらも病気を治すお薬ではなく、進行をゆるやかにするお薬です。対象になるか、通院や検査の負担がご本人やご家族に合うかを含めて、主治医とよく話し合って決めていきます。関心がある場合は、診察でお気軽にたずねてください。

🌿 お薬以外にできること

  • からだを動かす — 散歩や体操など、無理なく続けられる運動
  • 人と交流する — おしゃべり、地域の集まり、趣味の仲間
  • 生活リズムを整える — 起きる時刻、食事、日中の活動、夜の眠り。高齢者の睡眠ケア
  • 聞こえを保つ — 難聴があれば、補聴器で聞こえを補うことも大切です
  • デイサービスを利用する — 運動や交流の場になり、ご家族が休む時間にもなります

接し方・ケアのコツ(このタイプならでは)

アルツハイマー型では、出来事は忘れても、そのときの「嫌な気持ち」や「うれしい気持ち」は残りやすいことがわかっています。この性質を味方にするのが、接し方の基本です。

👛
「財布を盗られた!」と言われたら

否定したり説得したりすると、ご本人はますます不安になります。まず「それは困ったね」と気持ちを受け止めて、一緒に探しましょう。見つけたときは、ご本人が自分で見つけられるようにさりげなく誘導すると、「疑われた」「やっぱり盗られていた」というしこりが残りにくくなります。

「大変、一緒に探そう。いつもこのあたりに置いていたよね」
🔁
同じ質問を何度もされたら

ご本人にとっては、毎回がはじめての質問です。初めて聞かれたように、短く穏やかに答えましょう。予定はカレンダーやホワイトボード、メモに書いて、目に入る場所に置くと、ご本人が自分で確かめられます。

「病院は明日の朝だよ。カレンダーにも書いておいたからね」
🍵
うまくいかなかったとき

失敗を指摘されたつらさは、出来事を忘れても気持ちとして残ります。責めるより、さりげなく手伝って、終わったら「ありがとう」。ご本人の自尊心を守ることが、落ち着いた毎日につながります。

🧺
できることは、続けてもらう

心配で何でも代わりにやってしまうと、役割や自信が失われ、かえって元気がなくなることがあります。洗濯物をたたむ、食器を拭く、花に水をやるなど、できることは取り上げずにお願いしましょう。手順を一つずつ区切ると、取り組みやすくなります。

🌇
夕方にそわそわしてきたら

「家に帰る」と言い出すときは、不安のあらわれのことが多いです。理由を否定せず、お茶を飲んだり、一緒に少し歩いたりして気持ちが切り替わるきっかけをつくってみましょう。部屋を早めに明るくするのも助けになります。

🌷 ご家族も、ひと息ついてください

いつも理想どおりに接するのは、誰にとっても難しいことです。うまくいかない日があって当然です。介護サービスを使うこと、ほかの家族や専門職に頼ることは、ご本人のためでもあります。介護ガイドもご覧ください。

とくに気をつけたいこと

暮らしを守るために、早めに話し合っておきたいことです。ご本人の気持ちを大切にしながら、できる対策から始めましょう。

🚗 車の運転

認知症があると、道を間違える、信号や標識の判断が遅れるなど、事故の危険が高まります認知症と診断された場合は、法律上、運転を続けることはできません。軽度認知障害(MCI)の段階でも、運転について早めに主治医と相談してください。車は生活や誇りと結びついていることが多いので、移動手段の代わりを一緒に考えることも大切です。運転免許と病気のページ

🔥 火の始末

鍋をかけたまま忘れる、たばこの火の消し忘れなどは、火事につながります。自動で火が消える機能のついたコンロや、火を使わない調理器具への切り替え、火災警報器の確認をおすすめします。

💴 お金の管理・詐欺被害

支払いの忘れや二重払い、通帳の紛失に加え、訪問販売や電話での詐欺にねらわれやすくなります。大きなお金の出し入れはご家族と一緒に行う、留守番電話を活用するなどの工夫を。お金や契約の管理を支える制度(日常生活自立支援事業や成年後見制度など)もあります。制度ガイド

💊 お薬の飲み忘れ・飲み過ぎ

飲んだことを忘れてもう一度飲んでしまうと、からだに負担がかかるお薬もあります。お薬カレンダーや、1回分ずつまとめる包装(一包化)を薬局で相談し、ご家族が確認できる形にしておくと安心です。

🧭 道に迷う・一人で出て行ってしまう

慣れた道でも迷ってしまうことがあります。自治体の見守りネットワーク(事前登録で、行方がわからなくなったときに地域で探す仕組み)への登録や、靴やかばんに入れる位置情報機器の活用を検討してください。服や持ち物に連絡先を書いておくのも役立ちます。行方がわからなくなったときは、ためらわずに早めに警察に相談してください。

よくある質問

Q本人に病名を伝えたほうがいいのでしょうか?
伝えるかどうか、どう伝えるかは、ご本人の性格や状態によって違います。病名を知ることで、ご本人が治療や今後の暮らしについて自分の希望を話せるという大切な面もあります。ご家族だけで抱えこまず、主治医と一緒に考えていきましょう。
Q遺伝しますか?子どもも同じ病気になりますか?
ほとんどのアルツハイマー型認知症は、親から子へそのまま受けつがれるものではなく、年齢や体質、生活習慣などいくつもの要因が重なって起こると考えられています。ごく一部に、遺伝の影響が強い家系もあります。ご心配な場合は、主治医にたずねてください。
Qお薬を飲んでいるのに、もの忘れが良くなりません
今あるお薬は、進行をゆるやかにするためのもので、もの忘れを元に戻すお薬ではありません。「悪くなっていない」「進み方がゆっくり」なら、効いている可能性があります。効果や副作用が気になるときは、自己判断でやめずに、診察で相談してください。
Q新しい抗体薬は、誰でも受けられますか?
対象は、軽度認知障害(MCI)〜軽度の段階で、アミロイドβの蓄積が確認された方です。定期的な点滴と MRI 検査のための通院が必要で、実施できる医療機関も限られています。ご本人の状態や、ほかの病気、通院の負担なども含めて判断しますので、まずは主治医に相談してください。
Q何度も同じことを聞かれて、つい怒ってしまいます
それだけ一生懸命に向き合っている証拠です。自分を責めすぎないでください。怒ってしまったあとは、穏やかに声をかけ直せば大丈夫です。イライラが続くのは、ご家族が疲れているサインでもあります。デイサービスなどで離れる時間をつくることも、よいケアの一部です。ご家族のガイド
Qトイレが近くなり、夜も何度も起きます
認知症では、トイレの場所がわかりにくくなる、尿意をうまく伝えられないなど、さまざまな理由で頻尿や失敗が起こります。からだの病気が隠れていることもあるので、まずは主治医に相談を。認知症と頻尿・トイレのページに工夫をまとめています。

相談先と関連ページ

📞 相談できるところ

  • かかりつけ医・主治医 — 体調の変化、お薬、検査のことはまずここへ
  • 認知症疾患医療センター — 専門的な診断や、症状が強いときの相談
  • 地域包括支援センター — 介護保険の申請、介護サービス、見守りなど暮らしの相談の窓口

🌻 若年性アルツハイマー型認知症の方とご家族へ

65歳未満で発症した場合、仕事を続けるかどうか、家計、子育てなど、高齢での発症とは違う悩みが重なります。お子さんへの影響が心配なこともあるでしょう。

こうした悩みは、全国若年性認知症コールセンターで相談できます。職場との調整や経済的な支えとなる制度についても、ひとりで決めずに相談してください。制度ガイド

🌰 このページで伝えたかったこと

アルツハイマー型認知症は、年単位でゆっくり進む病気です。
だからこそ、今から準備し、工夫する時間があります。

お薬は治すものではありませんが、進行をゆるやかにできます。
そして、接し方や環境の工夫で、毎日の困りごとはやわらげられます

出来事は忘れても、気持ちは残ります。
ご本人の安心を大切に、ご家族もひとりで抱えずに。

← 認知症を知ろう 介護ガイド →

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📚 参考資料