行動や言葉の変化は、
「人柄」ではなく「病気の症状」です
このページは、「前頭側頭型認知症」と告げられたご本人とご家族が、その日の夜に落ち着いて読めるようにまとめたものです。はじめから全部を読まなくてかまいません。気になるところから開いてください。
この病気では、もの忘れよりも先に、「人が変わったように見える」行動や言葉の変化があらわれることがあります。それはご本人の性格や、わざとしていることではなく、脳の病気による症状です。
もしこれまで「性格の問題だ」と思って、ご本人を責めてしまっていたとしても、それは病気がわかりにくかったからです。ご自分を責める必要はありません。今日から、見方を少し変えていけば大丈夫です。
脳の前のほうにある前頭葉は、意欲、判断、周りに合わせてふるまう力(社会性)を受けもっています。耳の奥のあたりにある側頭葉は、言葉を理解したり使ったりする働きを受けもっています。前頭側頭型認知症では、この前頭葉と側頭葉が中心に縮んでいきます。
そのため、記憶よりも先に、ふるまい・意欲・言葉に変化が出やすいのが特徴です。
「行動障害型」と呼ばれます。周りへの配慮がきかなくなる、同じ行動をくり返す、食べ物の好みが変わる、などが中心です。
言葉の意味がわからなくなるタイプと、なめらかに話せなくなるタイプがあります。
日本の都市部での調査では、認知症全体のうち前頭側頭型は約1%でした(朝田, 2013)。認知症の中では多くないタイプです。
特徴的なのは始まる年代で、40〜60代など、65歳未満での発症が多いとされています。仕事や子育ての真っ最中に始まることもあり、ご本人だけでなく、ご家族の生活にも大きく関わります。
この病気では、ご本人が自分の変化に気づきにくいことが多く、受診につながりにくい傾向があります。また、性格の問題、うつ病、統合失調症、発達障害などと思われていることもあります。「本人が困っていないから」ではなく、脳の働きの変化によって気づきにくくなっていると考えてください。
前頭側頭型認知症のもとになる病気は「前頭側頭葉変性症」と呼ばれます。
「前はこんな人じゃなかったのに」という違和感から始まることが多いです。どれも、ご本人がわざとしているのではなく、脳の変化によって起きていることです。
人前で思ったことをそのまま口にする、場にそぐわないふるまいをする。以前は周りに気をつかう人だったのに、と感じる。
お店の品物をお金を払わずに持って帰ってしまう、信号を無視して渡るなど、社会のルールが効かなくなる。
仕事や趣味、身だしなみへの関心が薄れ、一日ぼんやり過ごす。うつ病と思われることもある。
家族が体調を崩しても気にかけない、悲しい知らせにも反応が乏しいなど、相手の気持ちへの共感が薄れる。
毎日同じ道を歩く、決まった時刻に決まったことをする、予定が変わると強く抵抗する。
急に甘いものばかり欲しがる、同じものばかり食べる、食べ過ぎてしまう。
仕事や家事の手順を組み立てられない、計画どおりに進められなくなる。
ものの名前や言葉の意味がわからなくなる、つかえてなめらかに話せなくなる(言葉の障害が目立つタイプ)。
行動の変化が目立つタイプでは、初期には、もの忘れや道順の記憶は保たれていることが多いです。「認知症なら、もの忘れがあるはず」と思うと、病気だと気づきにくくなります。「記憶はしっかりしているのに、ふるまいが変わった」ことも、大切なサインです。
前頭側頭型認知症は、ゆっくりと進む病気です。ほかのタイプと比べて、もの忘れより先に、行動の変化が目立つのが特徴です。どのくらいの速さで、どんな順番で変化するかは、人によって大きく異なります。
ふるまいや意欲の変化、または言葉の変化が少しずつあらわれます。もの忘れや道順は保たれていることが多く、「性格が変わった」「疲れているだけ」と受けとめられやすい時期です。
くり返す行動やこだわりがはっきりし、仕事や家事、お金の管理など、生活のいろいろな場面で手助けが必要になっていきます。言葉の障害も広がり、会話が少なくなることがあります。
身のまわりのことにも手助けが増えていきます。ご家族だけで抱えず、介護サービスや医療の力を借りながら、ご本人が穏やかに過ごせる環境を整えていく時期です。
経過には個人差が大きく、ここに書いた順番どおりになるとは限りません。先の心配でいっぱいになるより、「いまのご本人に合った工夫」をひとつずつ考えていくほうが、ご本人もご家族も楽になります。状態が変わったときは、その都度主治医と相談していきましょう。
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| アルツハイマー型 | 血管性 | レビー小体型 | 前頭側頭型 | |
|---|---|---|---|---|
| 日本での割合(※1) | 約7割 | 約2割 | 数%(※2) | 約1% |
| 最初に目立つこと | もの忘れ(新しいことを覚えにくい) | 意欲の低下、考えや動作のゆっくりさ | 幻視、日による調子の波、動きのぎこちなさ | 性格や行動の変化、言葉の障害 |
| 進み方 | ゆっくり少しずつ | 脳卒中のたびに段階的に(ゆっくり進むことも) | 良い日と悪い日の波がある | ゆっくり、行動の変化が先に目立つ |
| からだの症状 | 初期は少ない | 歩きにくさ、飲み込みにくさ、手足のまひ | 手のふるえ・こわばり、転倒、立ちくらみ、便秘 | 初期は少ない |
| 始まりやすい年代 | 高齢に多い(65歳未満もある) | 脳卒中の危険因子がある方に多い | 高齢に多い | 65歳未満での発症も多い |
混合型(アルツハイマー型と血管性が重なるなど)も少なくありません。
※1 厚生労働科学研究「都市部における認知症有病率と認知症の生活機能障害への対応」(朝田, 2013):アルツハイマー型67.6%、血管性19.5%、レビー小体型/認知症を伴うパーキンソン病4.3%、前頭側頭型1.0%
※2 レビー小体型は見逃されやすく、実際はもっと多いと考えられています。
この病気の診断では、とくに大切な検査です。ご本人は変化に気づきにくいため、ご家族からのお話が大きな手がかりになります。「いつごろから」「どんな場面で」「以前とどう違うか」をメモにして持ってきていただくと、とても助かります。
記憶や注意、判断などの働きを確かめます。言葉の変化がある場合は、言葉の理解や話し方を調べる検査を行います。
からだの病気や栄養状態など、ほかに原因がないかを確認します。
脳の形を撮影し、前頭葉や側頭葉の萎縮がないかを見ます。
脳のどの部分の働き(血の流れ)が落ちているかを調べます。形の変化がまだはっきりしない時期にも、手がかりになることがあります。
認知症のような症状があっても、治療によってよくなる病気が隠れていることがあります。たとえば、頭の中にゆっくり血がたまる慢性硬膜下血腫、脳の中の液体の流れが悪くなる正常圧水頭症、甲状腺機能低下症、ビタミンB12欠乏などです。これらを見逃さないためにも、血液検査や画像検査が大切です。
お薬について気になることがあれば、自己判断で増やしたりやめたりせず、診察で相談してください。お薬の個別情報
お薬でできることが限られるぶん、毎日の過ごし方や環境を整えることが、いちばんの治療になります。
「お薬がない=何もできない」ではありません。次のセクションで、具体的な工夫を紹介します。
この病気では、言葉で説得したり、注意して「わかってもらう」ことが難しくなります。それはご本人にやる気や思いやりがないからではなく、脳の働きの変化によるものです。
そこで大切になるのが、「ご本人を変える」より「環境を変える」という考え方です。
「わざとやっている」「わがままになった」と感じてしまうのは、とても自然なことです。それだけ、この病気の症状は性格の変化のように見えやすいのです。腹が立つ日があっても、あなたが冷たいわけではありません。ひとりで抱えず、介護サービスや相談先の力を借りてください。認知症の介護ガイド
社会のルールが効きにくくなるため、お店の品物をお金を払わずに持ち帰ってしまうなど、法的なトラブルにつながる行動が起きることがあります。
そのような出来事があったとき、または心配なときは、早めに主治医に相談してください。あらかじめ相談しておくと、いざというときに慌てずにすみます。
病気による行動であることを、医師の診断書などで説明できる場合があります。ひとりで抱えこまず、主治医と一緒に対応を考えましょう。
信号無視など交通ルールが効きにくくなることがあり、ご本人やほかの人の命に関わる事故につながるおそれがあります。ご本人に自覚がなくても、運転については早めに主治医と相談してください。認知症と運転免許
必要のない買い物を続ける、よく考えずに契約してしまう、といったことが起きることがあります。お金の管理をご家族と分担する、カードや通帳の置き場所を工夫するなどの対策に加えて、成年後見制度など、ご本人の財産や権利を守る制度もあります。制度ガイド
働き盛りに始まることが多いため、仕事のミスや、職場での言動がきっかけで困りごとが起きることがあります。「怠けている」「態度が悪い」と誤解される前に、主治医と相談しながら、職場への伝え方や働き方を考えていくことが大切です。
仕事や家計、子育ての最中に始まることが多く、配偶者やお子さんの負担が大きくなりやすい病気です。収入のこと、お子さんへの伝え方、介護と仕事の両立など、ひとつの家庭だけで抱えるには重すぎる課題もあります。使える制度や相談先を早めに知っておきましょう。
対象になるかどうかや手続きは、状況によって異なります。主治医や相談窓口に確認してください。制度ガイド
お住まいの地域の窓口は、市区町村の案内などで確認できます。
人が変わったように見える行動や言葉の変化は、
「人柄」や「わざと」ではなく、病気の症状です。
お薬でできることは限られていても、
日課づくりや環境の工夫で、
ご本人もご家族も楽に過ごせる時間は増やせます。
トラブルや心配ごとは、早めに主治医へ。
若い世代の発症を支える制度や窓口もあります。
どうか、ひとりで抱えこまないでください。