〜 場面ごとに、対人スキルを練習する 〜
SST(ソーシャルスキル・トレーニング)は、人づきあいを「性格」ではなく「練習すれば身につく技術」としてとらえ直す方法です。
日本語では「社会生活技能訓練」と訳されます。統合失調症のリハビリテーションから広まり、いまは発達特性のある方、10代、就労の準備など、幅広く使われています。
人づきあいが上手な人は、生まれつきそうだったわけではありません。多くは、子どものころから場数を踏んで、うまくいったやり方を自然に覚えてきただけです。
その機会が少なかったり、感じ取り方が人と違ったりすると、覚える機会がないまま大人になります。それは能力の問題ではなく、学ぶ機会の問題です。SSTは、その機会をあとから作ります。
SSTは、「何を言えばいいかわからない」「言い方がわからない」タイプの困りごとに向いています。
医療の場で広く使われています。
目的がはっきりしているほど効果的です。
SSTは、おとなしい人を社交的にする訓練ではありません。無理に明るくふるまう必要も、たくさん話せるようになる必要もありません。
目指すのは、「必要なときに、必要なことを、困らない形で伝えられる」ことだけです。静かなままで、まったくかまいません。
SSTには決まった手順があります。この順番を守ることが、うまくいくコツです。
「今度こういう場面がある」「この前これで困った」という具体的な場面を、ひとつだけ選びます。
あいまいな「もっと話せるようになりたい」ではなく、「休憩室で同僚に話しかける」くらいまで絞ります。絞るほど、練習になります。
まず、他の人がやってみせます。いきなり自分でやるのではありません。
見ることで、「そのくらいの声でいいのか」「そんなに長く話さなくていいのか」と、具体的なイメージが持てます。頭で考えるより、見るほうが早いのです。
その場でやってみます。本番ではないので、失敗しても何も起きません。ここが練習の価値です。
恥ずかしいものですが、頭でわかっていることと、口から出せることは別だとすぐわかります。一度声に出しておくと、本番で出てきやすくなります。
ここがSSTの心臓部です。やってみたあと、まずできていたところを具体的に伝えます。「声が聞き取りやすかった」「最初に相手の名前を呼べていた」というふうに。
「よかったよ」だけでは足りません。何がよかったのかがわかって初めて、次も再現できるからです。そして改善点は、多くても1つだけ。たくさん言われると、できていたことまで消えてしまいます。
練習した場面を、実生活で1回だけ試してみます。これが宿題です。
うまくいってもいかなくても、次に報告します。やってみたこと自体が成果で、結果は二の次です。ここで得た情報をもとに、次の練習を組み立てます。
SSTでは、指摘よりも「できていたことを言葉にする」ほうを重く扱います。理由は2つあります。
① 人は、うまくできた行動を言葉にされると、それをくり返しやすくなります。行動を増やすには、減点より加点のほうが確実です。
② 対人場面で苦労してきた方の多くは、すでに十分に指摘され、注意されてきています。そこにさらに指摘を重ねても、練習する気持ちのほうが折れてしまいます。
SSTは、統合失調症のリハビリテーションにおいて、社会生活の機能を改善する方法として確立しています。症状そのものより、「生活のなかで実際にできることが増えるか」という点で効果が報告されています。
複数の研究をまとめた解析では、対人スキルの向上、社会的な機能の改善、再発の減少が示されています。日本でも、入院・デイケアの標準的なプログラムとして広く行われており、診療報酬上も位置づけられています。
発達特性のある方や社交不安症に対しても、効果が報告されています。
SSTでいちばん難しいのが、練習の場でできたことを、実生活で使えるようにすることです(般化と呼びます)。
だからこそ、⑤の「実生活で試す」が欠かせません。練習室の中だけで終わらせない——ここが成否を分けます。
SSTを実際に練習できるツールと、関連する解説です。